第5話 拾い物がバイトはじめました!
結局こうなるのか・・・・。
黒髪の少年マクレーンは、本日もう何度目になるか数えるのをやめた溜息をまた吐いていた。
目の前で豪快に食事をする姿は、もう見慣れた。
いや見飽きた・・・・。
できる事ならこのままずっと、ここで食べ続けててくれればいいのに。
そんな現実離れした考えが頭を過ぎる。
それ程までにマクレーンは疲弊していた。
彼、アランと出会ってから、まだ数時間しか経っていないのだが。
もう、うんざりだ。
マクレーンは胸中で、何度も毒吐いていた。
「ん?どうした食べないのか?」
「アランさんを見てたら、お腹が一杯になりました。」
疲れ切った顔でそう言ってやれば、アランは冗談と取ったのか「面白い事言うな~」と言いながら笑った。
「冗談じゃないんですけどね・・・。」
そんなアランにマクレーンは呆れたようにぼそりと呟いたのだが、当のアランはそれを気にする様子も無い。
「さてと。」
食べるだけ食べたアランは徐に立ち上がると、宿屋の主人の所へ行き何やら話し始めてしまった。
マクレーンが怪訝そうな顔でその様子を見守っていると、すぐ話は終わり何故かアランは厨房の奥へと消えて行ってしまった。
「?」
ますます意味がわからないとマクレーンが立ち上がろうとしたその時。
厨房からアランが姿を現した。
しかもその姿は――。
エプロン姿。
旅用の上着を脱ぎ、シャツとズボン姿になったアランは、その上から宿屋の主人達と同じエプロンを身に付けていた。
そして、慣れた手つきで料理を運び始める。
しかも、料理を運びながら他の客から注文を受けたりもしていた。
その姿は、なんとも手際が良い。
突然目の前で起こった出来事に、訳も分からずポカンとした顔で見ていると、宿の店主がマクレーンの元へと近づいて来た。
「いや~アンタの連れ、なかなかどうして、いい青年じゃないか。」
「は?」
肩にぽんと手を置きながら嬉しそうに笑いかけてくる店主に、マクレーンは意味がわからないと視線を上げた。
「いやね、あの青年「自分は持ち合わせが無くて、連れに奢らせてばかりじゃ悪いから」って、泊まっている間、うちの店で雑用でもなんでも良いから働かせてくれって、言って来たんだよ。」
近頃じゃ見かけない良い子じゃないか、そう言って息子を見るような目でアランを見つめる店主の言葉に、マクレーンは耳を疑った。
そんな、だってそんなこと一言も・・・・ここだって強引に連れて来られて・・・・当然僕が出すのが当たり前って顔してたのに。
胸中でそう呟きながらマクレーンはアランを再度見た。
呆然と見つめるマクレーンの視線の先には――。
楽しそうに仕事をするアランの姿があった。
厨房から出された沢山の料理を器用に運び。
テーブルで待つ客達に冗談も交えて笑顔で対応するその姿は。
なんか・・・。
ほんのちょっとだけ。
格好良く見えた。
ぼんやりと見つめるマクレーンの視線に気づいたのか、アランはマクレーンに向かって笑顔と共にウインクをしてきた。
マクレーンは慌てて視線を背けると、席を立ち逃げるように部屋へと戻ってしまった。
その後――。
アランが部屋へと戻って来たのは食堂が閉まり、泊まっている客達が寝静まってから大分経った後だった。
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