僕のおつかい

第6話 拾い物がバイトはじめました２

またやってる・・・・。

次の日、マクレーンが朝起きた時には部屋にアランの姿は無かった。

もしやと思い食堂に来てみれば、やはりというかなんというか、アランはエプロン姿でまた仕事をしていた。

「６番テーブル、へいお待ち！」

「おっ、兄ちゃん今日もやってるのかい？」

アランが元気の良い声で料理をテーブルに置くと、待っていた常連客がにかりと白い歯を見せながらアランに話しかけてきた。

「ああ、他に注文は？」

「そうだな～、じゃあこれとこれを頼むよ。」

アランは屈託の無い笑顔で返事をしながら、それとなく注文を促す。

そんなアランに客は上機嫌で注文をしていく。

「お、太っ腹だね～待ってな出来立て熱々のを持ってくるから。」

「おう頼んだぜ！」

ノリの良い客に、アランはおう！と元気よく返事をすると厨房へとまた消えて行った。

食堂も兼ねるこの宿屋の常連の客とも、いつの間にか打ち解けているアランにマクレーンはただただ感心する。

このままここで働くのが性に合ってるんじゃないか？

ふと、そんな考えが頭に浮かんだ。

そうだ、ここで働いて貰えば・・・・僕の後をついて来る事も無くなるかも！

そんな考えに行き着き明暗だと一人ほくそ笑んでいると、すぐ傍からトンと軽い音が聞こえてきた。

驚いて見上げると目の前には爽やかな笑顔のアラン。

「おはようマクレーン、これおやじさんから！」

にかりと屈託の無い笑顔を見せながらアランはそう言うと、テーブルを指差してきた。

「え？」

アランが指差した先――そこには湯気の昇る出来立ての料理があった。

その料理とアランの顔を驚きながら交互に見るマクレーンに、アランはくすりと苦笑すると。

「奢りだってさ、俺のおかげだぜ！」

そう言ってウインクしながら、アランはマクレーンの向かい側の席に座った。

アランの話を呆然と聞いていたマクレーンは、次の瞬間とんでもないと慌てて立ち上がった。

「そ、そんな……いいです、ちゃんとお金は払いますから！！」

「な～に遠慮すんなって！たくさん食べろよ～。」

「いや、そうじゃなくて・・・アランさん！」

マクレーンの言葉も虚しく、アランは一緒に持って来たお皿とフォークを並べると、「頂きます」と手を合わせて料理を食べ始めてしまった。

そんなアランにマクレーンはまたしてもがっくりと項垂れる。

ダメダこの人、ひとの話全然聞きやしない・・・・。

だんだんアランの事が分かってきたマクレーンだったが、全く嬉しいなどとは思えず相手の事を理解すれば理解する程、逆にどんどん気分が沈んでいった。

はあ、と盛大に溜息を吐くと、ストンと椅子に座り直す。

仕方がなく目の前に出されたフォークで、アランが持ってきた朝食を口に運んだ。

「美味いか？」

もくもくと食べていると、ふいにアランが声をかけてきた。

「……はい。」

「そうか～やっぱり労働の後の食事は美味いよな～。」

にこにこにこにこ。

アランはうんうんと頷くと、また料理を口に運ぶ。

一人で納得するアランの顔を、マクレーンはジト目で見ると。

「僕は働いてませんけど。」

と、もくもくと料理を口に運びながら言ってやった。

対するアランは。

「ああ、そうだな。」

俺が働いてただけだからなと、さも当たり前のように言ってきた。

その声は嫌味など微塵も感じられず、その顔は屈託のない笑顔のままだ。

その答えにマクレーンはなんと返したら良いのか分からず、仕方なく目の前に乗った料理に視線を落とした。

アランの意図がよくわからない。

あの泉で助けた後、「魔女の所に案内してくれ」と頼んで来た彼。

「魔女の所へは行かない」と冷たく突っぱねた自分に何故かついて来た彼。

しかも、お金目当てで強引に宿に一緒に泊まったかと思えば、「奢らせるのは悪い」と宿屋で手伝いを始めた彼。

彼――アランは何を考えて僕に付き纏っているんだろう？

魔女に会いに行くため？

お金？

それとも・・・・。

いやいや彼にとってそんなまさか・・・。

そう、まさか・・・・。

自分を心配して？

見た目少年の姿の自分は、よく周りの人間から心配される事が多い。

行く先々で「僕、迷子かい？」などと年配の人に心配された事など、数え切れないほどある。

もしかして・・・彼も？

有り得なくは無い仮定に、マクレーンはちらりとアランを盗み見た。

彼――アランは見た目もれっきとした大人に見える。

自分よりはそう、子供には見えない。

もしかしてもしかすると・・・子供に見える自分を心配して、ここまでついて来たのかもしれない。

マクレーンはもしやの考えに、答えを出すべく口を開いた。