第23話
「はは、冗談だよ。でも、その慌て様、もしかして図星だったかな?」
いやー、あはは、こっちもしゃれですよと、間藤は頭を掻く。洒落かどうかは僕にはわかったが、特に何も言わずにアイスを掬い続けた。
先輩におごってもらい店の外に出ると、もう空の色は紺青だった。
「それじゃあ、桜木、ちゃんと間藤さんを家まで送って差し上げなさい。私は帰るんで、よろしくね」
それだけ言うと、そそくさと先輩は僕たちから遠ざかっていた。
先輩の命令ということもあり、僕たちは並んで薄暗い歩道を歩いていった。
「桜木さん……、ところで今日はすみませんでした」
俯き加減で、呟くような声だった。僕は、何がと短く返す。
「それは、その……、確かに、桜木さんに、好意は少なからずあって……。うーん、これをやっぱり恋と呼ぶのかな……」
それは本人の前で言うことじゃないねと言うと、すみませんと間藤は頭を下げた。
間藤について歩いている間に、いつまにか、いつもの通学路からはずれて、住宅街の坂道を登っていた。明かりは家々の外灯だけで、そのせいか、星がいつもより、綺麗に見えた。
「まあでも、ある意味では恋というのかもね。いわゆる運命の人と言うか、でもそれって、刷り込みと変わらないんじゃないかな」
刷り込みですか?と、間藤は首をかしげる。
「うん、刷り込みっていうと雛鳥がはじめて見たものを親だと思うやつだけど、恋っていうのも似てると僕は思うんだよね。恋に落ちるときは何がしかきっかけがあって、それが劇的か、それとも些細なことかはわからないけど、そのきっかけで人はその人の性格とかに関係なく、その人を好きになるわけで、要するに、きっかけさえあれば、恋に落ちる相手が極端に言うと誰でもいいということになるからね。だから、恋なんてものは信用ならないし、付き合ってから幻滅するなんてざらだしね」
はー、なるほどと、間藤はうなずく。久しぶりに長台詞を吐いて、喉が少しイガイガした。
「でも、人が誰かを好きになることを恋と言うのなら、桜木さんの持論に従うと、すべて自分の思い込み?で、相手のことなんかどうでもいいということになるのでは?」
そうだよとだけ呟く。だから、僕は恋愛なんか嫌いなんだとは口に出しては言わないが。
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