第21話

 そんなことはないと即答してくるかと思いきや、顎に手を添えてしばし先輩は黙り込む。先輩が次に口を開くまで、草書のように綺麗な文字をただ僕は見つめていた。

「まあ、桜木がそれでいいというのなら別にいいよ」

 無機質な声を聞いて、やっぱりこの人は嫌な所をついてくると眉にしわを寄せた。

「わかりましたよ。やりますよ、やりゃあいいんでしょ」

 はは、それでいいんだよ桜木、と、笑いながら肩を叩いてくるのが地味に痛い。そして、なぜか、そんな僕と先輩を見て、間藤はニコニコと微笑んでいた。

「よし、じゃあ、この話はこれで終わり。この後は、二人に特別任務としてあるところについて来てもらいます。学校には戻らないので、三十秒で荷物をまとめてくださいな」

 ドーラかよ、と僕と間藤の声が部室に響いた。


 ジューっという音が聞こえ、煙が上に立ち上っていく。ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ぷはーっと音を鳴らして、先輩はドンっとジョッキを叩きつけるようにテーブルに置いた。

「さあ、さあ、さあ、はい、間藤さんはハラミ、桜木はロース」

 よく焼けたハラミを間藤さんのご飯の上に置き、ちょうど火が通ったロースをタレの入った僕の皿に先輩は入れる。

 肉のいい匂いが充満する店内で、先輩は次々と肉を焼いては僕と間藤に取り分けてくれていた。

「あの、天童先輩、私焼きますよ」

「いいから、いいから。今日は、間藤さんの歓迎会なんだから。間藤さんはただひたすらに肉を食べなさい」

 わかりましたと言って、積み重なってきていた肉の山をたれもかけずに、ごはんと共に間藤は口にかきこみ始める。もぐもぐと口を動かす間藤の目には輝きがあった。

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