第19話
目の前で、あーっ、もうっ、と川岸さんは頭を掻きむしる。僕は、立っているのがしんどくて、地面に腰かけた。
「ねえ、怒るのは分かるけどさ、毎度毎度、僕のこと殴らないでくれる?ほら、これあげるから」
袋の中から、二つあるうちの一つを掴んで、川岸さんの方に放り投げる。少し横に逸れてしまったけど、手を伸ばしてパシッと山岸さんはキャッチした。
「……おにぎりじゃねえか。俺は、サンドウィッチ派なんだよ。用意するなら卵サンド用意しとけ」
投げ返されたおにぎりが僕の手に届くまでに川岸さんは屋内に戻っていた。
それから、水曜から金曜まで毎日屋上に連行され、卵サンドを献上して何とか殴られることはなくなった。
「ところで川岸さんはどうしてそんなに有名人なの?」
木曜日、エビマヨおにぎりを頬張りながら、少し離れたところで卵サンドを口に運ぶ川岸さんに話しかけた。
「ああ、それな……。自分で言っちゃあ何だが俺ってしゃべらなかったら美人なんだよ。それで、今まで何度も告られてそのたびに振ってるから、何と言うか男になびかない美人っていうのでな、有名らしい……。それなのにあんたに絡んだせいで、あんたが俺の彼氏だなんて、くそみたいな噂が立って、まあ、その、それに関しちゃすまないな……」
出会って初めて、しおらしい声だった。
そんなこんなで気づけばもう金曜日の放課後、部室でコーヒーが冷めるのを待っているのだった。
先輩は、僕が来る前から部室にいたようで、奥のデスクで、積み重ねられた漫画や小説を手に取っては、ページをペラペラと最初から最後までめくって、別の本の山の上に移していた。
「先輩、言うの忘れてましたけど。山神さんに僕を紹介したのって、完全に僕に対する嫌がらせですよね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます