第17話
「や、山神さん、そ、それはまずいですよ。だっ、だって、桜木さん、彼女いますもんね、ねっ」
それを聞いているだろうに、山神さんは一向に僕の手から両手を放さない。まあ、一応、彼女はいるが、それはともかく、僕にはもっと気になることがあった。
「どうして、山神さんは、そんなに、僕が運命の人だって信じられるの?」
「決まってるじゃないですか。私がこの世界の主人公だからですよ」
一点の曇りもない目で、山神さんは僕の目を見つめ続ける。どうしてこう、僕の周りには、少しこじらせている人間しかいないのだろうかと思った。
「いいじゃないか、桜木。こんな可愛い女の子と付き合わないのなんて損だぞ。今を逃すと一生彼女出来ないかもよ」
流石にイラっとして、山神さんの手を振りほどいて、先輩のコーヒーにテーブル脇にあったタバスコをぶち込んだ。しかし、先輩は、素知らぬ顔でタバスコ入りコーヒーを口に運んで、顔色一つ変えなかった。
「やっぱり駄目です。桜木さん、付き合うなら、私にしましょう、よ」
テーブルに手をついて、ドンっと間藤が立ち上がる。今までにない剣幕で、僕、ではなく、山神さんを睨んでいた。
「分かりました。これも、一つの試練と言うところなのでしょう。では、これからは、桜木さんを取り合うライバルということで、どうぞよろしく」
山神さんも立ち上がり、上品に僕と先輩、最後に長めに間藤にお辞儀をして、颯爽とカランと鳴るドアを開け、喫茶店内から消えた。
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