第16話

 トンっと先輩が指を下すと、動画が再生されて、それを僕と間藤と山神さんはのぞき込む。そこには、見覚えのある横断歩道の上で見覚えのある少女が横たわっていた。数秒後、一人の学生が現れて、迫りくるトラックから少女を持ち上げて歩道まで運ぶ。そこまでで、動画の再生は止まった。

「これが、君が助けられた時の映像。ただ、この角度からだと君を助けた運命の人の顔はわからない。ただ、すぐ近くの別の防犯カメラに、君を助けたと思われる生徒が映っていて、これが――」

 タブレットを操作し、先輩は一枚の写真を表示する。その写真にはばっちりとその生徒の顔が映っていた。

「あの、これって……」

 間藤と山神さんの声が被る。二人とも僕の顔を見ていた。ただ、僕は写真に写る自分の顔を、無表情で眺めていた。

「先輩、このために僕を連れてきたんですね」

「まあね。だって桜木、最初から事情を説明したら、来なかったでしょ?」

 全部わかったうえなのが、意地が悪い。他の人には、わからないようにため息をついた。

「あなたが……、私を助けてくれた人だったのですね。本当にありがとうございました」

 上品に山神さんは頭を下げる。仕方なく、僕も軽く頭を下げた。顔を上げると、山神さんは突然、身を乗り出して、机の上にあった僕の手を両手で包み込んだ。

「ぜひ、私と付き合ってください。桜木さん」

 手を握られたことに驚く暇もなく、その言葉に面食らう。山神さんは一心に僕の両目を見つめてくる。たまらず視線をそらした先では、そしらぬ顔で先輩はコーヒーに砂糖を入れ、間藤は目を大きく見開いていて、僕と目が合うとハッと我に返ったように、勢いよくしゃべりだした。

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