第9話

「それにしても、ほんとにお前が部員を探してくるとはなあ。お前友達いないのに」

 ニタニタと笑みを浮かべる訳でもなく、パソコンに向かって手を動かしながら、何気ない調子で、先輩はそう言ってきた。余計なお世話です、とぼやくように僕は答える。

 授業も終わった金曜日の放課後、部活棟にある一室で、目の前にあるコーヒーから立ち上る湯気を眺めつつ、僕は、間藤霧を待っていた。

 なかばもう関わることもないだろうと思っていた間藤と再会したのは、電車のときの少女に殴られた後のことだった。

 あの後、痛む口を押さえつつ、仕方がないので教室に戻ると、普段は集まらない視線が、犯罪者を見るかの如く集まって、あのお調子者の立華さえも、僕の方をちらちらと見るだけで、話しかけても来なかった。

 しかも、授業が終わって休み時間になるたびにほかのクラスの生徒まで廊下から僕をのぞいているようだった。かすかに聞こえて来る生徒の話し声から、どうやら僕があの少女と交際していて、しかも喧嘩か何かであの少女を泣かしたという全くもって事実無根の話が広まっているようだった。

 でも、普通、生徒間の痴情のもつれくらいで、他のクラスの生徒までもがわざわざあの少女のを見に来るものだろうか。どうにも、あの少女の身元を調べた方がよさそうだと僕の本能が言っていた。

 そんな状態で、やっと放課後になり帰ろうとしたところで、現れたのが間藤だった。

 担任の話が長く、他のクラスより放課になるのが遅かったため、先に終わったクラスの生徒が早くも廊下から教室を見回して、あれだとかどことか言いつつ、ときおり僕のことを指さしているのが視界の端で見えていた。

 ようやく担任の話が終わり、生徒が立ち上がって教室から出ていくのに合わせて、僕も歩き出したけど、残念なことに僕の周りにだけ人が寄り付かず、生徒に紛れて学校から脱出するという僕の目論見はしょっぱなから失敗した。

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