第8話
さっきのパンチで口の中が切れたのか、鉄の味のするどろっとした液体が口の中で増えていた。
「はあ、はあ、気持ち悪い気持ち悪い人間どもから、やっとおさらばできるところだったのに……。俺は、あんたを絶対に許さない。責任取って――」
しゃべっている途中で、少女はつかつかと屋上の縁に歩いていく。僕は動かずにそれを眺めていた。
「今、ここで、俺をここから、突き落とせ」
風が吹いて少女のスカートと髪が揺れる。かすれ気味の力強い声とは裏腹に、少女の手足はとても細かった。
口の中にたまった血を吐き出す。なおも血は口の中であふれ、生臭い味がまずかった。
「甘ったれんじゃねえよ。死にたきゃ、一人で死にやがれ。少なくとも僕の目の前以外でなあ。そもそもほんとに死にたきゃ、駅で飛び込み自殺なんかするなよ。もっと確実で誰にも助けられない死に方をしろーっ」
血を吐きながら、こちらもさっきまでしゃべっていなかったぶん、大声で言い返す。言い終わると同時に、チャイムが校舎の方から聞こえてきた。
少女は僕の顔を見て、苦虫を噛み潰したような顔になっていた。
「くそったれ。いいか、必ず、必ずだ、俺はあんたに殺されるからな」
覚えてろよこそ言わなかったが、こちらを口惜し気に振り返りながら、屋上の出入り口に少女は走っていって、姿を消した。
はあと息と血を吐き出して、寝っ転がる。こんなときでも、雲は空高くをゆったりと流れていた。
次の授業は体育だし、そのまま僕は目を閉じた。
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