第3話
二人目は、ゴールデンウィークが明けた翌日だった。
このときも、登校途中で、駅のホームで少女が線路に落ちるのを目撃してしまった。この時は前回と違い、僕以外にもそれなりに人がいたし、押されて落ちたのなら 自分で退避用のスペースに移動できるから、すぐには助けに向かわなかった。
でも、人垣から見える少女は線路に横たわってピクリともしないし、それを見ても一向に誰も線路に降りないのを見かねた僕は、人垣を分け入って、線路に飛び降りた。少女のそばにかけよって、抱きかかえるように持つと、すぐ近くのホームの下にある退避場所に少女を移す。線路の奥をちらっと見てから、ホームに飛び上がって急いで人ごみに紛れて、改札に向かって歩き出した。振り返るとちょうどホームに電車が到着したところだった。
後日、家で新聞を読んでいると、地方欄に線路に落ちた少女を高校生が救ったという内容の記事が載っていた。記事の最後では、高校生の素性を求むという文と、URL、あと、少女を運ぶ僕の後ろ姿を写した写真が載せられていて、それを見て、僕は静かに新聞を閉じた。
「それにしても何なんだろうね?立て続けに女の子、三人も救っちゃって。呪われてるんじゃない?」
そう言って、彼女はくつくつと笑う。ぎゅっとこぶしを握り締めてから僕は口を開いた。
「ほんとに迷惑な話だよ。けど、結局のところ、何か意味ありげに思えても、何も意味なんかないんだよ。まあ、宝くじが当たるのと同じだね」
ふーんという彼女の声に重なって、ドアの開く音が雨音とともに耳に届く。ちらっと図書室の入り口に目をやってから、すぐさま立ち上がって、開いたドアとは反対側にある入り口に歩き出す。背中に嫌な汗をかきながら、書架の間を通って、ドアを通り抜ける。
廊下に出ると、先ほどよりも雨音が大きく聞こえた。そこで立ち止まってほっと息を吐き出すのと同時にガチャっという音が背後から聞こえてきた。
「あの……、もしかして私を助けてくれた人、ですか?」
ここで走り去るのも不自然なので、仕方なく後ろを振り返る。そこにいた少女の顔が不安そうな顔から笑顔になったのを見て、失敗してしまったと悟った。
「やっぱり、あのときの人だ。私ずっと探してたんですよ。どっかで見覚えがあると思って、図書室にあれからずっと通ってたのに、どうして一度も来なかったんですかっ。今だって、私の顔を見ると、逃げるようにでていくしっ」
なぜだか一方的にまくし立てられた僕は、すこしイラっとして反射的に声が出た。
「なんで君はあの時、飛び降りなんかしたんだよ」
息継ぎをしていた少女は開こうとしていた口を閉じて、少し間を置いて、今度こそ口を開いた。
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