第4話
「そもそも、飛び降りじゃないですー。窓枠に腰かけてたら、バランス崩して落ちたんですー。思い込みで断定しないでくださいー」
口をとがらせる少女を見て、はーっとわざとらしくため息をつく。
「わかったから。で、要件は何?僕のこと探してたんでしょ?」
そう言われて、少女は、はっと息をのんだ。
「あ、その……、すみません。あの時のお礼を言いたくて……。どうもありがとうございました」
腰を九十度に曲げて、少女は頭を下げた。
「で、それだけ?それだけなら、もうどっか行くけど」
「えっと、あの……、その、命を救ってくださったので、鶴の恩返しと言っちゃなんですか、一つだけ、何でもあなたのお願いを聞きます……」
最後の声は、少し控ええ目な声だった。
「いや、別にいいけど」
「そこを何とか。なんかありません?金銭なら、一万までなら渡せますけど」
少女の目が若干、潤んでいるように見えた。
なんでそんなことにこだわるのかが分からない。罰ゲームか何かなのだろうか。正直言って、見ず知らずの人間に頼むようなことがあるほど、僕は人生に困っていなかった。が、一つ、どうしてもしておかなければならないことがあるのを思い出した。
「それじゃあ、僕が、君を助けたことは他言無用で」
えっ、と、小さく呟いてから、すみません、それ以外でと少女は頭を下げた。まあ、どうせ口止めは無理だろうとは思っていたから別に問題ないけど、それ以外でと言われると、特に思いつかなかった。
正直言って、この問答が僕にはうっとうしくなってきていた。困ったように、こちらを見る少女を置き去りにして、ここから走り去ろうとさえ思って、片足を少し後ろに下げたところで、唐突に、一昨日、先輩に言われたことを思い出して、やっぱり、足を元の位置に戻した。
「じゃあ、僕の部活に入ってよ。部員不足で廃部にされかけてるもんで、先輩から部員を探すように言われてるんだよね。幽霊部員でいいからさ」
さっきまでの不安そうな顔が、笑顔になったかと思うと、分かりました、それじゃあ、と言って、いきなり、僕の隣をすり抜けて、少女は廊下を駆けて行った。
その後ろ姿を見ながら、いろいろと適当な人だなあと思った。
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