第5話:“こっち”
何はともあれ、和服を着る。
女子は障子の向こう、男子は和室で着替える事になった。
「一矢君の裸は見れなかったけど、影絵ストリップは見せられそうだね」
「祠堂。窓のカーテン閉めておいてくれ。そうすれば障子に影が映らない」
「ええ、そうします」
「貴様……そこまでして私の邪魔がしたいか……」
「さ、紗月ちょっと待ってください!私は一矢の指示に従ってるだけです!私は悪くありません!」
「はあ……もういいからさっさと着替えるよ」
殺されそうになり焦る菜々羽、菜々羽を殺そうとする紗月、乳首が見られず意気消沈している大前の女子3人は、障子の向こうに消えていった。
「よし……じゃあおれも着替えるか」
「そうだね!はい、どうぞ!」
「おお、ありがとう」
メアリが満面の笑みで一矢の着物を渡してきた。受け取ったそれを一度畳に置き、ブレザーを脱ぐ。
「あ、ハンガーに掛けとくね」
「助かるよ。何から何まで……?」
ズボンのベルトを外そうとしたところで、一矢は違和感を覚える。
「……東海林さん」
「えー何か他人っぽいその呼び方!メアリって呼んでほしい!」
「じゃあ……メアリ」
「なあに?一矢クン?」
メアリは嬉しそうに笑う。可愛い。可愛いが、1つ重大な問題がある。
「その……手伝って、くれるのか?」
「もちろん!そのつもりだよ?」
「ああ、ありがとう。嬉しいんだけど、その……」
一矢は今、和服を着ようとしている。当然ながら、そのためには制服を脱がなければならない。全裸までとはいかずも、パンツ姿にはならないといけない。
「どうしたの?あ、服脱がすの手伝ってほしい?」
「おぉう待て待て!」
近づいてこようとしたメアリを止める。プラチナブロンドの天使が脱がしてくれるそのシチュエーションは魅力的だが、出会って30分にも満たない相手にそんな事はさせられない。
「さすがに恥ずかしいので結構です!」
「え、そう?」
メアリはこてん、と小首を傾げた。
「(ま、まさか、このシチュエーションの意味がわかっていない!?)」
見た目が幼いとは言え、高校生にもなって男の服を脱がす行為の意味がわからないはずがない。いや、先ほど堂々と抱き着いてきた事を考えると、本当に理解していないのかもしれない。
「(待てよ。そもそも、何故メアリは“こっち”にいるんだ?)」
変態シスターズや菜々羽と一緒に、障子の奥にいるべきではないだろうか?
それなのにこちらにいるという事は……もしかして、全て理解したうえで脱がそうとしている?
だとしたら話は全く変わる。天使のような見た目をしていながら、本質は小悪魔。それはそれで底知れぬ良さを感じるが、純真無垢な瞳を見ていると、とてもそうは思えない。
「(ど、どっちだ!?どうなってるんだ!?)」
一矢は頭を抱えた。もしかして無垢でも小悪魔でもない、第3の可能性があると言うのか?
「……あ、そういえば!」
不意にメアリが手を叩く。
「お抹茶の粉がもう無かった!ちょっと職員室行って先生からもらってくる!」
そう言うと、メアリは制服のスカートを翻して和室を出て行った。
「(な、何かラッキーだったけど、助かった気がする……)」
一矢はホッ、と胸を撫で下ろす。
「チッ……」
「んだよ……」
「何やってるんですかそこの女子2人……」
「!?」
閉じた障子の奥から何かが聞こえたような気がして、悪寒を覚えた一矢だった。
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