第3話:マジならいいってもんじゃない
「……」
紗月がカーテンを薄く開け、外を覗き見る。
「うん、特に見張りとかはいない。大丈夫」
「ありがとう。よし、行くか」
一矢は通学カバンを持つと、キッチンにある換気扇の格子の蓋を外す。先に紗月がダクトに入り、その後を一矢が続く。放っておいても問題ないとは思うが、蓋は家のカギの感覚で着けなおした。
「……まさか、おれ自身がこの通路を使うとは思わなかったな……」
光森に追い回された翌日。一矢は紗月と共にダクトからの登校を試みていた。
「私も、ここのことは教えたくなかった。けど緊急事態だから仕方ない」
光森は「
一矢が学校のトイレで用を足しているときに、清掃員に扮してカギを開けようとしたときはさすがに怖かった。これが今後も続くのであれば、校内は勿論、わずか数分の通学時間すら危険に溢れているだろう。
そこで紗月から提案されたのが、ダクトから通学する方法である。
一矢の部屋のダクトは、男子寮の裏に繋がっている。正面玄関はそのまま某高校の玄関と繋がっているので、裏から出たほうが安全だ。
「にしても、何なんだあの教師は……紗月、何か知ってることないか?」
「某高校の野球部顧問」
「それはおれも知ってる。他は?」
「練習中に履いていたソックスが高値で売れる」
「ああ……そう」
特に有益な情報ではなかった。どういった層に需要があるかは知らないが、小遣い稼ぎをしたくなったら考えよう。
「……あ、ここだよ」
四つん這いで進んでいると、行き止まりにたどり着いた。格子状のフィルターから、外の光が入ってきている。ここから出られるのだろう。
「……よし、いない」
周囲を確認した紗月が先にダクトから出る。一矢も用心深く出る。確かに、そこは男子寮の裏口に当たる場所だった。基本的に学生が来る場所ではないため、通学時間でありながら人は誰もいなかった。
「おれんちの換気扇はこんなとこに続いてたのか……」
この一件が終わったら裏口のフィルターをボンドで接着しよう、と決意した一矢だった。
その後、一矢と紗月はトイレの窓から校舎に侵入し、1-A の教室にたどり着いた。自分たちの通う学校だが、まるで不法侵入したかのような感覚を覚えた。
しばらくして、菜々羽が教室に入ってきた。
「おはよう、祠堂」
「えっ!あ、ああ、ごきげんよう、一矢」
「ん……?」
いつもと比べ、その日の菜々羽は妙にたどたどしかった。まるでそう、何か重大なことを隠そうとしているような。
「人でも殺したのか?」
「はぁっ!?急に何わけのわからないことを!?」
「なら良かった」
あの菜々羽が大人しくなるくらいだから、そのレベルのことをやったんじゃないかと思ったが、一矢の思い過ごしだったようだ。
「いや良くありません!私が殺人を犯すような人間だと!?これでも、祠堂家の人間としてそれはもう厳しい訓練を積んできましたけど!」
「たまにあるじゃないか。追い込まれ過ぎた結果、悪行に走ってしまうことが」
「うっ、そ、それは……」
心当たりがあるらしかった。おそらくボールを500キロで射出するバッティングマシンの開発が含まれているだろう。
「えぇっと……あ!私、財布を寮に忘れてきてしまいましたわ!取りに帰るので、先生に言っておいてくださいな!」
そう言うと、菜々羽は通学カバンを持って教室から飛び出していった。
そしてそのまま、彼女が教室に帰ってくることはなかった。
更にその日、一矢は光森とも接触しなかった。久しぶりに穏やかな学校生活を過ごした。
しかし彼は胸騒ぎを感じていた。
世間一般で言うところの日常は、某高校においては非日常である。つまり、この状況は“非日常”であるが故に、長くは続かない。しばらくすれば、また“日常”が戻ってくる。
「おかしい……今日は何もなかった」
一矢と同じ感覚が、紗月にもあった。
トイレの窓を通り、今度は校内から脱出した。そこから男子寮の裏口まで来た。道中わずかな時間ではあったが、何も起こらなかったことに彼らは違和感を覚えていた。
「まさか、光森が諦めた……とは到底思えないか」
「そうだね。祠堂さんと同じくらいの執念をあの人からは感じる。まあ私ほどじゃないけど」
彼女なりに、そこの自信はあるらしい。
「もしかしておれが一番警戒しないといけないのは紗月なのか……?」
「その先は考えちゃダメ。失神したい?」
紗月が一矢に向かって両手を広げる。谷間に沈めるぞ、という脅迫だ。
「悪かった、おれが悪かった」
仮に紗月が最大の脅威だったとしても、それに気付くのが圧倒的に遅すぎた。もはや、彼女が何をしようと気にならない。むしろ、一般的な女子高生のムーブをされると逆にたまげてしまうだろう。
「か、一矢君、私、男の子の部屋に行くの初めてで……」
「どの口が言ってるんだ」
朝と同様に、男子寮裏口のダクトに入る。今度は一矢が先に入り、その後を紗月が続いた。
「このまま何も無かったらいいんだけどな……」
「そうだね。けどあの女が簡単に諦めるとは思えない。最悪のパターンも考えないと」
「最悪のパターン?」
「もうすでに、一矢君の部屋にいるパターン」
「お、恐ろしいこと言うな!おれに安息の地はないのか!?」
「まあ、あくまで最悪のパターンだから。いくらなんでも教師が異性の生徒の部屋に入ることはないと思う」
「そ、そうだよな……」
一般的に考えて、部活の勧誘のためだけに部屋に押しかけてくるような人間はいないだろう。紗月が言うように、これは本当に最悪のパターンだ。半ば妄想のようなもので、実現することはないだろう。
もうすぐ部屋に着く。やれやれ、何故帰宅するだけなのにこんなに疲れるんだ。
「ん……?」
部屋の直前まで来た時、一矢は異変に気が付いた。
「……なあ、紗月。おれ今日家出るとき、換気扇の蓋外したままだっけ?」
「え?いや……一矢君のスマホのパスコードならわかるけど、さすがにそれは……」
「逆になんで知ってんだ」
パスコードを変えておこう、と思ったが、紗月ならどうせ新しいものもわかるだろう。
いや、とりあえずそれはいい。今は目の前の問題だ。
果たして一矢はその日の朝、換気扇の蓋を開けたままにしていたか?
「……いや、違う」
彼は覚えていた。今朝、家のカギの感覚で、蓋を着けなおしたことを。
「わっ!?」
その時、一矢の部屋からダクトに向かって4本の何かが伸び、それが彼の手首と腕を掴んだ。
「何ィーっ!?」
一矢を掴んでいたのは、4本の手だった。2本は細く、もう2本にはしなやかな筋肉がついている。
「うおーっ!な、何か引っ張られる!」
「一矢君!」
紗月が背後から一矢に抱き着き、彼が引っ張られないように踏ん張る。しかしじりじりと一矢は部屋に引っ張られていく。
「くっ!おっぱいが邪魔で上手く力が入らない!」
一般的なバストであれば、誰かに抱き着いた際はその膨らみが潰れる。背中から抱きしめたとしたら、その形状変化により相手との物理的な距離がなくなり、腹側に腕が届く。
しかし紗月のそれは話が違う。相手の胴体に抱き着こうとしてもバストの規格外の大きさとハリが障害となり、一矢の脇腹までしか腕が届かない。そのため、上手く一矢を引っ張ることが出来ない。
「私の完璧無敵のおっぱいに、こんな弱点があったなんてーっ!!」
「ふざけてる場合かァーっ!!」
必死にもがいたが、謎の4本の腕によって一矢と紗月は引きずり出された。
「一本釣りぃーっ!」
「オワァーッ!!」
一矢と紗月は空中で回転しながら、ベッドに叩きつけられた。
「いって……ってうわーっ!ベッドが真っ二つになってるー!」
一矢のベッドは、二人が落下したちょうど真ん中のところでポッキリと折れていた。テーブルに続き、どんどん一矢の家具がおしゃかになっていく。
「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」
一矢と紗月に迫る2つの影。
「あっ、アンタ、なんでこんなところに!?」
2人のうち1人は、光森だった。彼女はあくまで教師としての態度で一矢に応える。
「まさか男子寮の裏口からこの部屋までダクトが繋がっていたとは。これは風紀上、修正しないとな」
「ちょっと待て、なんでウチの隠しルート知ってんだ!?まさか紗月、裏切ったのか!?」
「一矢君。私が一矢君のこと裏切るわけない。今の言葉取り消して」
無表情ではあるが、明らかに紗月は怒っていた。その凄みのある態度を受け、一矢はすっと冷静になった。
「わ、悪い……勢いで言ってしまった。申し訳ない」
紗月は大変なトラブルメーカーではあるが、一矢にとって大切な存在であることに変わりはない。その彼女を疑ったことを、素直に反省した。
「うん、いいよ」
紗月から、威圧感が消える。
「私は絶対に一矢君を裏切らない。いつだって貴方の味方。けど、裏切ってほしい時は言ってね。寝取らせとか」
「おいやめろ!おれにその趣味はないし、想像もしたくない!」
相変わらず、明らかな感情の起伏がないと、何を言っても冗談なのか本気なのかわからない。あるいは、一矢に対するちょっとした仕返しだったか。
「それにしても、ダクトのことを知っているのは私だけのはず……可能性があるとしたら、私がここを通っているところを見た、祠堂さん……」
「ふぇっ!」
光森の背後から、間抜けな声がした。
一矢は立ち上がり、今にも玄関に向かって駈け出そうとしていた女の肩を掴んだ。
「……よう、祠堂。今朝ぶりだな。忘れ物は見つかったか?」
「お、おほほほほほ……ごきげんよう、一矢。今朝ぶりですわね……」
ギギギギ……と錆びた音が聞こえそうなほど、ぎこちない動きで振り向く菜々羽。端正な顔を、冷や汗が流れた。
「なあ菜々羽。今日数学の授業でさ、“ここテストに絶対出します!”って先生が言った問題があったんだ。運良くおれは聞いてたからさ、その部分ちゃんとメモ取ってんだ」
「さ、さすが一矢、勉強もバッチリですわね……」
「先生が言うにはさ、その問題が解けたら赤点はないらしいんだ。だから菜々羽にも教えてやりたいんだけどさ、人として対価が欲しいンだわ」
一矢は菜々羽の肩に腕を回し、不気味な笑みを浮かべて囁いた。
「そこの教師にダクトのこと教えたの、お前か?」
「さ、さあ……」
「はいかイエス以外の返事したら、お前の部屋にマヨネーズぶちまけてやるからな」
「ちょっ……!それはあんまりではなくて!?」
菜々羽は一矢から離れると、開き直ったかのように宣言した。
「そ、その通り、光森先生にダクトのことを教えたのは私!」
「やっぱりお前かァーっ!!!」
「だって一矢も知ってるでしょう!私がこの間の競人ですっからかんになったのを!!」
菜々羽がスカートのポケットから財布を取り出し、逆さに向ける。床に落ちたのは、500イェン硬貨1枚のみだった。
「私だって悩んだ!光森先生から話を持ちかけられたとき、これは悪魔の罠だ、乗ってしまったら人としての何かが崩れてしまうと!だから悩んで悩んで、普段8時間なのに、昨日の夜は9時間しか眠れなかった!」
「ぐっすりじゃねえか」
「そうだ佐山!祠堂を責めるのは筋違いだ!」
一矢と菜々羽の間に、光森が割って入る。
「彼女に頼んだのは私だ!責めるなら私を責めろ!」
「そこまで言うなら何故こんな真似を」
「そ、それは……仕方がないだろ!あの手この手を尽くしても君が入部してくれないんだから!」
「諦めましょうよそこは!」
「私の辞書に諦めの文字はない!」
「アーッ!」
一矢は頭を抱えた。やはりこいつも菜々羽と同じタイプだ。とてつもない執念を持っている。
「よーしわかった!全員席に着け!」
「な、なんだいきなり……」
「こうなりゃおれたちらしく、ゲームで白黒着ける!」
そう叫ぶと、一矢はテレビ台に置いていたゲーム機の電源を入れ、コントローラーを全員に配った。そしてソフトを起動する。最大8人まで一緒にプレイできる、有名な2D格闘ゲームだ。ルールは至ってシンプル。相手の操作キャラをエリア外に吹っ飛ばしたら勝ち。
「おれと紗月、祠堂と先生がチーム。おれたちが負けたら、おれは野球部に入る。逆に勝ったら、おれは紗月、祠堂の3人の部活にこのままいる!」
「了解」
「なるほど、いいだろう。やってやる」
「……え、私、先生のチーム?……なんで!?私たち3人は仲間でしょう!?」
「ああその通りだよ。けど一発ぶちかまさないと気が済まん!あ、ちなみにおれたちが勝ったらテーブルとベッド弁償してもらうからな。祠堂の金で」
「500イェンでどうしろと!?」
「何とかしろ!ほら始まるぞ!」
「え、ちょっと待ってアァーッ!」
ゲームが始まった瞬間、一矢によって菜々羽の操作キャラは場外に吹っ飛ばされた。
「よし!あと一人だ!」
「この……卑怯者!」
「お前にだけは言われたくない!」
一矢と紗月は束になって光森を倒そうとする。
しかし光森は動かない。何か策があるのか。
「え、えーっと……あっ、動いた」
光森のキャラは一矢に向かって動いた。攻撃するでもなく、ガードするでもなく、あまりにも無防備に。
「先生このゲームやったことありませんわね!?」
「貰った!」
「危ない!」
菜々羽が光森のコントローラーに飛びつき、ボタンを押した。光森の操作キャラの中心から緑色の球体が現れ、それがバリアとなり一矢と紗月の攻撃を防ぐ。
「あっ、祠堂お前!卑怯者!」
「貴方には言われたくない!せ、先生頑張って!私借金することになっちゃう!」
「な、なるほど、ここを押していればガードが……ん?何か小さくなってないか」
最初は光森のキャラを丸ごと包んでいたガードが、段々と縮小している。今や見た目上は腰の辺りしか包んでいない。
「先生!ボタンを離して!」
「え?でも離したらガードが……何っ!?」
小さくなっていたガードが、パチンとシャボン玉のように消えた。それだけでなく、光森のキャラが酒に酔ったかのようふらふらとしている。
「し、祠堂!何だこれは!全く動けなくなったぞ!」
「ガードしすぎると動けなくなる仕様なんですわー!」
「オラー!」
一矢と紗月が左右から、息を合わせて攻撃する。光森はロケットのように画面外に飛んで行き、勝負は決した。
「よっしゃ勝った!」
「いぇーい」
一矢と紗月がハイタッチを交わす。
「う、ぐぐぐぐ……500イェンしかないのに……!」
「……」
対して敗北した菜々羽、光森のコンビは歯噛みしていた。
「というわけだ先生!これでおれが野球部に入る件はなし!いいな!」
「……ぐすっ」
「えっ?」
「ぐすっ、うっ、うぅっ……!」
光森はコントローラーを強く握ったまま嗚咽を漏らし、涙を流していた。
「うわー泣かせた!一矢、先生のこと泣かせた!サイテー!」
「ここぞとばかりに責めるな!」
「一矢君。私は一矢君のこと好きだけど、さすがに人を泣かせるのはちょっと」
「お前はおれの味方じゃなかったのか!?」
水を得た魚のように菜々羽は生き生きとし、あの表情の変わらない紗月が一矢にゴミを見るような視線を向けていた。
「せ、先生、すいません。さすがにやり過ぎました」
「うっ……違う、違うんだ、佐山……」
光森は手の甲で涙を拭う。
「何だろうな……涙が……涙が出てくるんだ……今私は、とても嬉しい……」
「へ、嬉しい?」
一矢と菜々羽が口を半開きにする。
「……誰かと一緒に遊ぶなんて、もう何年振りなんだろう。……教師として、野球部顧問として、この学校で勤めてきた。一心不乱に指導に取り組んできた。けどいつも寂しかった。……佐山にも避けられていたし、最近、練習中に履いていたソックスがよくなくなるし、自分は誰にも受け入れてもらえない人間だと思ってた……」
「(ソックス……)」
一矢は思い出していた。光森が練習中に履いていたソックスが高値で売れることを。
「……先生」
泣いている光森の肩に、菜々羽が手を置く。
「確かに、一矢を執拗に勧誘したのは良くなかった。貴方が野球部の活動に真剣なのはわかりますが、その気持ちはあまりに一方的過ぎました」
「一矢君。あの人ついこないだ一矢君をストーカーしてたよね」
「確かに、アイツだけはあれを言っちゃいけないよな」
「外野!うるさい!……いいですか、先生。大事なことを伝えます。貴方の居場所は、野球部だけじゃありません」
ハッ、と光森が顔を上げる。
「私たち3人が、いつでも貴方を迎えます」
「うっ……祠堂」
光森の瞳から溢れた涙が、頬を流れ落ちていく。
「みんな……ありがとう。君たちはこんな私を、受け入れてくれるんだな……」
「ええ、勿論です」
菜々羽が今まで見たこともないような、爽やかな笑顔を浮かべる。
……おかしい。
何かがおかしい。
祠堂菜々羽は見た目は麗しい。しかしその性格は、控えめに言ってもお淑やかではない。目の前に打ちひしがれている人間がいたら、調子に乗って責め立て、逆上した相手に反撃されるタイプのはずだ。
「光森先生。私たちは仲間です。それをより強固にするために、手伝ってほしいことがあります」
「な、何だ!私に出来ることならなんでもする!」
「では、私たちの部活の顧問になっていただけませんか?」
「(悪い奴だなお前!)」
どうりでおかしいと思った。何の意図もなく、菜々羽がお嬢様ムーブをするわけがない。
「居場所の感覚と言うのは、名前のあるコミュニティに属することで強くなります。そして物理的な、私たちだけのスペースがあるとなお良い。それを達成するべく、貴方に我々の顧問になってほしい」
彼女は心を動かされた光森の隙に乗じ、自分の最大の目的を果たそうとしている。
一矢や紗月相手だったら、絶対に通用していない。そんな隙すら与えていなかっただろう。
「なる!顧問になる!」
しかし光森には通用した。それはつまり、彼女がとてつもなくチョロく、真正の寂しがりということであった。
そして翌日。
「ついに手に入れた!部室!」
校舎の隅にある、一般的な教室の3分の1程度の空き部屋。かつて某高校のどこかの部が使っていたらしいが、廃部になり今は使われていないらしい。
「良い部屋だな」
部屋の真ん中に一般的な学校机が2つ並び、片隅にパイプ椅子がいくつか立てかけられている。入って左側にはロッカーが並んでいるため、色々と物を収納することも出来そうだ。
「一矢君、学校で催した時はここが使えるね」
「使わんわ!」
「……好きに使っていいけど、ハメは外すなよ」
光森がため息を吐く。菜々羽の作戦通り、彼女は一矢達の部活の顧問を担当することになった。ただ、野球部の顧問も継続する。
「いいか佐山、私は君のことを諦めていない。今は一旦休戦だけど、気が変わるまで……」
「出禁にしますよ」
「わぁ~っ!私が悪かったです!だから出禁だけは許してください……」
これまではピンと張った雰囲気を漂わせていた光森だが、今や出禁をちらつかせるだけで眉をハの字にするようになっていた。
「わっ!紗月見て下さい!コスプレ衣装です!」
菜々羽が好奇心で開けたロッカーに、綺麗に畳まれたメイド服やチャイナ服があった。
「これは使える」
「使えるって何に……?ちょっと、なんで脱ぎ始めてるんです!?」
「え、だって使わないと」
「だから何に!?」
「祠堂、先生、こいつを止めろ!本気だぞ!」
一矢、菜々羽、光森が紗月に飛び掛かる。3人がかりでようやく紗月から衣装を奪い取った。
「もう。せっかく一矢君にコスプレ見せようと思ったのに」
「見せなくていいから……」
「私の本気のコスプレだよ」
「
紗月は暴れても顔色一つ変えていないのに対し、他の3人は膝をついて肩で息をしていた。
「……そういえばこの部」
光森がポケットから部活動の申請書を取り出す。
「名前、これで良かったのか?」
「ええ!」
息を整えた菜々羽が胸を張る。
「私たちを表すのにピッタリでしょ?」
「……まあ、確かに」
「私は違うかな」
「「お前に一番合ってるよ」」
そう。彼らの部活、
本気すぎる彼らの、やかましい高校生活が始まった。
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