第9話 謎のお姫様(2)
「でも」
と、
「不自然なの。その旧
「いまでもですか?」
「いまでも」
結生子さんはうなずいた。
結生子さんはこの地方の
ということは、結生子さんの村にもあったのだ。
たぶん、その対立が。
「で、だいたいは、姫方は姫様を神様としてまつっているのに、家老方は、姫様なんていなかった、って、昔から言い張ってきたわけ。で、姫方と家老方は、子どもどうしが仲よくならないように引き離しておくとか、お祭りもいっしょにやらないとか、まあ最近はなくなったけど、漁協も姫方と家老方で組織が分かれてたりして、とにかく仲が悪いわけ」
それは。
なんか、すごいなぁ。
「しかも、藩主の命にかかわる騒動があった、というところまで、幕府も藩も認めてるのに、公式記録にその詳細が残ってない。それだけじゃなくて、その
「幕府にとっても、藩にとっても、あんまり大事件にはしたくなかったのよね」
と、大ヌシの千菜美先生が言う。
「藩は、もちろん、藩主家の騒動となると、さっきの仁子ちゃんの話のとおり、取り
「ということは」
さっき先生に対して鋭い指摘をした泉仁子が言う。
「先生も、そのお姫様は実在して、その幕府と藩との都合で消された、っていうか、史料に残らないようにされた、という考えなんですか?」
「その可能性はある。歴史学で追究してみる価値はある、ということ」
先生は仁子にそう指摘されて、言いかたが、ちょーっと、偉そうになった。
「それを、最初からお姫様はいたに違いない、とか結生子ちゃんが言うから、痛い目を見せてあげたのよ」
だから。
それはハラスメント相談窓口に持って行っていいですか、という話だった、と思うのだが。
「
それで、解決するのか、どうか。
……というか、そういうひとが泣き寝入りしないために、そういう相談窓口ができているということで。
それに、いまのって、ブラックバイト相談窓口とか、そっちかな?
「それで」
と
「それと、その、結生子さんが自転車で漁業博物館に行ったこととは、どう関係あるんですか?」
仁子なんか進行役ですか?
結生子さんが答える。
「さっき言ったでしょ? いまでも姫方と家老方に分かれてるところがある、って。そういうのは海辺の村が多いの。あと、その相良讃州易矩っていう家老の改革は、漁村に、その、海産物っていうのを高く売れる仕組みを作ってやる代わりに、税金を高くするっていうものだったわけ。ところが、その、漁村に買いに行く商人って、その相良讃州と結んで儲けていたような商人よ。だから、漁村の得になるようなことをするはずないのよね。だったら、商人には搾取されるし、税金も払えないしで、村は潰れるはず。じっさい、いくつもの村が税金が払えなくて潰れてるんだけど、つぶれずにがんばった村もあるわけ。それで、さっき言ったように、漁獲高が変わっていないんだったら、税金が上がったのに、なぜがんばれたんだ、というところも謎なわけ。その謎と、お姫様の謎が結びついて、うまく説明できたらいいな、と思ってるわけよ」
「でも、用心してよ」
先生が言った。
「あなた自身がその対立っていうのに無関係じゃないんだし、ほんとに感情的になるひと、いるからね」
「はい」
何か混ぜっ返すかな、と思ったら、結生子さんは正直に言った。
「気をつけます」
そう言って、小ヌシの結生子さんがガラスの湯呑みを
みんな、お茶も飲み終わり、じゃがいもデンプンのお菓子も食べ終わったようだ。
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