第22章-3
「北条! てめえ、なにしてんだ!」
「ちょっとこれ持っててくれ」
「は? なんでだよ」
「いいから持てよ。汗かいたからこいつを
「おっ、格好いいじゃねえか。お祭り
汗を
「いいか? しばらくすると猫が奴に
「おっ、千春も来たのか。どうだ、これ。まさに二時間ドラマだろ?
「なに言ってんのよ! カンナちゃんがあんなことになってるのに!」
「いや、あれはあれでカンナも楽しんでるだよ。――な? そうだろ?」
振り返った顔には満面の笑みが浮かんでる。カンナも
「ま、ちょっとばかり嫌な感じはするけど、楽しんでるわよ。千春ちゃん、だから心配しないで」
「なに言ってんの! カンナちゃん、この人がすぐ助けに行くから! ほら、行きなさいよ! あなたはそういう
肩をすくめ、彼は千春に近づいた。そのときには目を細めてる。
「千春、これからなにがあってもそこを動くな。大丈夫だ。カンナは絶対に助ける。いいな? なにがあっても動くなよ。わかったら、なにも言わずに目を閉じろ。うなずくのも無しだ」
しばらく
「いや、マジで二時間ドラマっぽいな。俺、こういうの大好きなんだよ。な? 山もっちゃん、たまにゃこういうのもいいだろ? いつも
「おい、どうしたってんだよ。心配のあまりおかしくなっちまったのか?」
山本刑事は目だけ向けてきた。猫たちは周りを囲むようにしてる。
「俺がおかしいのはいつものことだ。――って、あまり主人公を放っておくのもよくないな。
彼は立てた指を前へ
「とんだ
「それこそ違うね。お前は馬鹿だから人間理解が足りてないんだ。カンナは怖がってなんかいない。ま、震えてるってなら、小便したいからだろ」
「なによ、それ。別にオシッコなんてしたくないもん。それに震えてるのはこの人の方よ。さっきからブルブル、ブルブルってみっともないくらい」
「嘘だ。私は震えてなんかない」
「また出たな。さっきから違う、嘘だってうるさいんだよ、お前は」
鼻に指をあて、彼は頬をゆるめた。目だけが細くなっている。
「いいだろう。もう嘘だなんて言えないくらいの真実を教えてやる。長谷川裕哉物語ってわけだ。今まで無視されてたんだ、注目されて
北条は
「さっきのつづきだ。お前の母親はウンコをまき散らしていた。そこに
ゆっくり歩きながら彼は話した。頬はゆるんだままだ。
「だけど、そんなことしたら周りはどう思う? トラブルがあるのはわかってんだ、長谷川のカミさんがやってるってことになるだろ。それでもママちゃんは
カンナの顔は
「それを知ったママちゃんはどうなった? 同じ毒を
「おい、まさかそれも、」
山本刑事は手を伸ばした。目はナイフへ向けたままだ。
「それは後で訊けよ。まあ、死ぬ気らしいから、そうなったら
振り返った彼は
「ここから話は飛ぶ。北条と名前の変わったお前は
彼は鼻先を
「いや、俺はもっと早く気づくべきだったんだ。あんだけの相手を脅迫してるなんておかしいって。でも、お前がやらせてたなら説明はつく。オマワリなんだ、そりゃいろんなことを知ってるよな。それを元に柏木伊久男を脅迫者に
カンナが手を挙げた。頬は少しばかり引きつっている。
「ちょっと待ってよ。じゃ、なんでこの人の写真もあったの? 私わかったんだから。『HY』って書いてあったのはこの人なんでしょ?」
「そうだ。ありゃ、こいつの写真だ。でも、あれだけおかしかったろ? まるで
「なんでよ。どうして自分も脅されなきゃならないの? なんか変じゃない?」
「それはこういうことだ。こいつは柏木伊久男を脅迫者に仕立てあげた。ただ、あの爺さんはそれまでとそんなに変わってなかった。評判も良いままだ。だから、どうやってんのか気になったんだよ。そのためにウサギを殺し、記念写真を撮って、自分も脅される方に回ったんだ。それに、
彼は指先を向けた。北条は目だけ動かしている。口は固く閉じたままだった。
「はっ! いいだろう。
深く息を
「みんな、ちょっとずつ近づけ。全員で取り囲むようにするんだ」
音にならない声でそう言い、彼は目を細めた。
「ただ、計画は
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