第22章-1
【 22 】
カンナは顔をあげている。手は自然と胸を押さえていた。
「あの、北条さん、訊きたいことっての後でもいいですか? 私、はぐれちゃったから心配かけてると思うんですよ。――あっ、そうだ。北条さんも一緒に行きません?」
向けてきた顔には
「できれば二人で話したいんですよ。こっちに来て下さい」
「こっちって、どっちです?」
タコ焼き屋の前で北条は足を止めた。カンナは視線を散らばらせている。――二人きりになりたいってどういうこと? やっぱり愛の告白とか? いや、そういう
「
カンナは
「わかったから、腕つかむのやめて下さい。こんなの見られたら
北条は手を
「――で、訊きたいことってなんです?」
「その、私をつけてたのは蓮實さんに言われてですか?」
「違います。それに北条さんだってわかってなかったし」
「わかってなかった? でも、あなたはずっとつけ回してた。どうしてです?」
「私、そのコートに見覚えがあったんです。なにで見たかは忘れちゃったんですけど、それが気になって。でも、つけようとかじゃなくて、思い出そうとしてたらそうなってしまっただけで、」
「それで、思い出せたんですか?」
「いえ、まったく」
猫に見守られてることはカンナにいつもの調子を取り戻させた。ところどころに怖れはあったものの頭のどこかではこうも思っていた。――いろんなことを総合すると、この人が犯人だったってことよね。でも、これってまさに二時間ドラマみたいじゃない? 私は危険な目にあうんだけど、その
「どうしたんです?」
「どうしたって、なにがです?」
「いえ、さっきまでと様子が違ってるから」
細い道を抜け、二人は法明寺の門に着いた。
「私、いろんなことがわかってきたんです。その、これまで耳にしてた
話しながらカンナは目だけ動かしてる。あの毛むくじゃらはゴンちゃんでしょ。あっ、ペロ吉もいる。――そうだ、ここで
怒りは怖れを打ち消していった。ただ、なけなしの冷静さを
「えっと、北条さんって出身はどこです?」
「え?」
「私は新潟なんです。だから、この辺の地名に
「それは蓮實さんが言ってたんですか?」
「はい。きっと山もっちゃん、――あの、山本って刑事さんと話してたと思うんですけど」
その声は
「山本さん、これはどういうことです?」
「そんなのわからんよ。でも、なにかあったんだろ。急がなきゃならない」
「馬鹿げてますって。なんで猫に
「四の五の言うな。とにかく猫ちゃんたちを追うんだ」
「ああ、キツいな。こんなに走ったのは久しぶりだ。おい、谷村、こっから
「俺がっすか? なんかやだな」
「いいから行けよ。蓮實の先生か、カンナちゃんがいるはずだ。そこで話を聴くんだ」
大量の猫が入りこんできたからだろう、
「
「じゃ、オチョもちゃんと仕事ができたってわけだね。クロ、あんたはオチョたちと裏手へ行ってるんだ。アタシがオマワリを連れてくから、さっき言ったのをみんなに伝えといておくれ」
「
猫の集団はふたたび
「山本さん、こっちです。――いや、たぶんですけど、あの
「ああ、そういうことか。なるほど」
「って、どういうことです?」
「いや、わからねえよ。二人ともいねえのがわかるだけだ。――えっと、千春さんでしたよね? なにかあったんですかね。その、猫ちゃんたちに連れられてここまで来たんですが、いるかと思った蓮實の先生もカンナちゃんもいねえで、」
千春は首を振っている。肩は落ち、瞳は
「わかりません。まったくなにがなんだか。――あの、カンナちゃんがいなくなって、それで、あの人は探してくるって。そしたら、猫が大勢やって来て、」
「ふむ、そうでしたか。――ああ、この猫ちゃんは蓮實の先生とよく一緒にいる、」
「ナア!」
立ち上がり、キティは
「おい、猫ちゃん、なにがあったんだ。教えてくれよ。蓮實の先生かカンナちゃんになにかあったってのか?」
刑事はしゃがみ込んだ。若造は首を
「なあ、教えてくれって。大変なことが起きたんだろ? ――ん、もしかして、あいつが
「ナア!」
ふたたびキティは吼えた。裏手からも「ウンニャー!」と聞こえてくる。刑事は立ち上がり、髪を
「谷村、こりゃマズいかもな。いや、よくわからねえが、あの二人になにかあったのは確かだろう」
「マジ言ってんすか? 俺には猫がやたら騒いでるとしか」
「うるせえ! いいか? これ以上あいつに罪を重ねさせちゃならねえんだ。な、猫ちゃん、どうすりゃいい? あいつがどこにいるか知ってるなら教えてくれよ」
「ナア!」
キティは走り、しばらく行くと振り向いた。目は
「おっ、連れてってくれるんか? 谷村、行くぞ!」
「わかりましたって。だけど、いったいなんなんすか」
刑事がいなくなると千春の目には光が入った。焼きそば屋の爺さんは腰を
「あんたも行った方がいいんじゃねえかい?」
「えっ? ――ああ、はい」
「だろ? でも、一人じゃ危ねえかもな。おい、
うなずきながら青年はエプロンを
「こいつについてくんだ。ほら、早く行くんだよ。でな、全部終わったら、ここに来い。うめえ焼きそば食わしてやっからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます