第21章-7
同じ道を走る蓮實淳の前にはクロが飛び出してきた。
「先生! カンナちゃんを見たぜ! あいつと一緒だった!」
「ほんとか? そりゃマズいな」
「ああ、今はオルフェがあとをつけてるとこだ」
「それで他のみんなはどうしてる?」
「ん、焼きそば屋にはキティの
「そうか、ありがとう。で、どっちに行ったんだ?」
「
「いや、俺は行かない。でも、ちょっと待ってくれ」
クロを抱き上げ、彼はそのまま考えた。周囲は穴があいてるようだった。猫に話しかける男を
「そうだな、キティに伝えてくれ。オチョたちを
「ああ、大勢で目白署に行く。それで鳴き
「頼むぜ、クロ」
「先生も気をつけてくれよ」
腕から飛び降り、クロは消えた。妙見堂はすぐだ。ただ、脚はゆるやかになった。人が多くてそうせざるを得ないのだ。――ふむ。また別れ道になっちまったな。しかも
「お兄さん、仕事中に悪いね。ちょっと訊きたいことがあるんだ」
「ん? なんだい?」
「少し前に背の高い男と祭り姿の女が通らなかったか?」
太った兄さんは
「ああ、通ったんじゃねえかな」
「ほんとか? で、どっちに行った?」
「そりゃ、あっちこっちさ」
「は? どういうことだ?」
兄さんは首を曲げた。唇は
「そんなのはいっぱいいるんだよ。それに、高いっていったって二メートルあるわけじゃねえんだろ? いちいち憶えちゃいねえよ」
「訊き方が悪かったな。ほんのちょっと前、十分もしないくらいだ、そん頃に百八十センチくらいのけっこういい男と百五十センチくらいの胸が大きくて祭り姿をした女が通らなかったか? たぶんだけど、その二人は恋人に見えなかったはずだ。もしかしたら男が手を引っ張っていたかもしれない」
「あんた、警察の人間かい?」
「いや、違う。でも、その二人を探してるんだ。危ないかもしれないんだよ。すぐ見つけなきゃならないんだ」
「そうなんかい」
「たぶんだが、それでもいいか?」
「もちろんだ。知ってることがあったらなんでも教えてくれ」
丸まった
「十分くらい前かな。あんたの言ってたようなのがその道を行ったよ。男が先に行って、女の手を引っ張ってた。女の方は何度か振り向いてたな。これでいいか?」
「ありがとう。助かったよ」
「持ってげよ。あんた、
「ああ、そうかもな」
「そうさ。早く行きな」
千枚通しを受け取りながら彼は
「これが終わったら全部
その頃、
「な、谷村?」
「はい?」
若造は真剣そうな表情を作り込んだ。山本刑事は手を洗ってる。
「まあ、予想通りだったな。組織ってのは段々
「でも、
「そうだろうさ。だけどな、後でこれがバレてみろ。また身内を
手を
「しかし、山本さん、さっきのは本当っていうか、――いえ、そうなんでしょうけど、ウサギを
「ん、まあ、そうなるんだろうな。俺も信じたくないが、ここまで
外はざわついてる。ドアをあけた瞬間に二人は首を伸ばした。
「なんだ? どうしたんだ?」
「さあ。なんか
警官たちが階段を
「どうしたってんだ?」
「おっきな事件でもあったんですかね。でも、その割にゃ、こう、」
話してる間も後から来る者が追い越していった。女性警官はキャーキャー
「谷村、ちょっと待て。なんか聞こえてこねえか?」
「はい? ――ああ、確かに」
「ニャー! ニャー!」
「フンニャー!」
「ナア! ナア!」
「おい、谷村。こりゃ、」
「なんなんすか? なにが起こったんです?」
そう言ってるあいだに猫は鳴きやんだ。警官たちは
「えっ、どういうこと?」
「山本さんか谷村くんがお目当てだったの?」
「そうなんじゃない? 二人を見て鳴きやんだんだから。――ちょっと、谷村くん、
「マジっすか?」
アホくさいと思いながら若造はしゃがみ込んだ。しかし、無反応だ。
「ってことは、」
全員が顔を向けてきた。山本刑事は首を引いている。
「は? なんだよ。俺にも隠れろっていうのか?」
「だって、目白署はじまって以来の大事件ですよ。解決できるのは山本さんくらいでしょ?」
やいのやいの言われて同じようにすると猫たちはまた
「ほら、山本さんがスイッチなのよ。猫スイッチ」
「なによ、猫スイッチって」
ほんとだよ。そりゃいったいなんなんだ? 山本刑事は
「おい、猫ちゃんたち、」
そこまで言うと
「その、なんだ、俺に用があるっていうのか?」
年のいってそうな柴トラが「ニャ」と鳴いた。
「蓮實の先生がここに行けって言ったのか?」
「ニャ」
「なにかあったんだな?」
「ニャ」
「わかった。でも、どうすりゃいいんだ?」
そう言った瞬間に猫は走り出した。ぼうっとしていたものの山本刑事もあとを追った。残された者は
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