第21章-6
「あの、すみません。――あっ、ごめんなさい」
少し歩いてはそう言い、ぶつかっては
「あのコート、なにで見たんだっけ?」
先を
あれ? どこ行ったんだろ?
ベビーカステラ
同じ時間、蓮實淳も
「ちょっとぉ、私はどうしたらいいの?」
千春が
「とはいっても人が多すぎるな。ほんとどっから
彼も《辻会計》の
「ああ、ベンジャミンか。カンナを見なかったか?」
「カンナちゃん? ううん、見てないけど」
「そうか」
「どうしたの?」
「ん、はぐれちゃったんだよ」
「えっ、迷子ってこと?」
「まあ、似たようなもんだ。ところで、みんなはどうしてる?」
「キティさんに言われてパトロールしてんの。屋根に乗って、あの男がいないか見てんだよ」
「じゃ、カンナを見たのもいるかもしれないな。ベンジャミン、キティに言ってくれ。カンナも見つけて欲しいって。それと、
「わかった」
小さな身体が消えると彼は歩き出した。ただ、うまく進めない。カンナと同じように「すみません」と言いつつ店の前までたどり着いた。
「あら、どうしたの?」
振り返った顔を見て、ベビーカステラのお姉さんは笑いだした。
「なによ、また
「カンナを見たんですか?」
その声は
「見たわよ、さっき。――えっと、そうね、五分くらい前だったかな。手を振ったんだけど、あっちに気になることがあるみたいで行っちゃったわ」
二人はしばらく道の先を見つめた。彼は鼻に指をあてている。
「どうしたのよ、考えこんじゃって」
「いえ、すみません。――あの、もしカンナを見かけたら店に戻るよう言ってくれませんか? その、なんだ、
「もちろんいいけど、なにしたの? あっ、他の女に目を向けすぎたりしたとか? ま、お祭りってそうなりがちだけど駄目よ。あんなかわいい奥さんがいるんだから」
彼は唇を
「とにかくお願いします。見かけたら絶対に声をかけて下さい」
「わかったわ。絶対そうすりゃいいのね」
笑ってるお姉さんに頭を下げ、彼はガラス戸の前に立った。――とりあえずはスマホだな。いや、駄目だ。
彼は
カンナが
確かに見たことあるのよ。それも、けっこう重要な感じのときに。もう、なんで思い出せないの? この辺まで出てるんだけどな。――あっ、そういえば、あの二時間ドラマにそういう
あれ? どこ行っちゃったんだろ? さっきまでいたのに。
カンナは辺りを見渡した。左に折れる道はあるものの、ひらけてるから曲がったらわかるはずだ。右手には鬼子母神の入り口がある。――ま、こっから入ったらもうわからないでしょうね。ほんとすごい人だもの。っていうか、なにやってんだろ。なんか馬鹿らしくなってきたな。心配かけるのもなんだし、もう戻ろう。最後に見失った場所を確認しようとカンナは首を曲げた。そのとき、黒いワゴン車の裏から声がした。
「カンナさん」
「はい?」
背の高い顔を見あげると息が
「――え? 北条さん?」
「そうですよ。どうしたんです? そんな顔して」
「いえ、その、ちょっとびっくりしちゃって」
「なんでびっくりするんです? ずっとつけてたというのに」
「つけてたなんて、そんな、」
「まあ、いいでしょう。少しお訊きしたいことがあるんですよ。歩きながら話しませんか?」
「えっと、」
カンナは
「お願いしますよ。ほんのちょっとだけですから」
「はあ」
北条は顔を寄せている。――やだ、なんか怖い。でも、訊きたいことってなんだろ。「おつきあいしてる方はいるんですか?」とか?
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