第21章-5
「おい、兄ちゃん、こっちだ。こっちだよ」
「ああ、やっと見つかった。千春、カンナ、行くぞ」
オッサンは
「えらく決まってるじゃねえか。それに、そっちのお姉ちゃんはやっぱりお
「楽しいな。それに格好もこうなった方が祭りっぽくてよかった。そう思わないか?」
「そうね」
二人は大声で言いあった。彼は本当に楽しそうだ。それはいいけど、なんか気に入らない。
「あっ、大和田の夫婦がいるぜ」
「えっ、どこ?」
「ほれ、広島風お好み焼きがあっだろ? その前だ。ああ、ありゃ子供なんだろうな。四人で歩いてる」
「ほんとだ。むちゃくちゃ楽しそう。奥さんのあんな顔はじめて見たわ」
集団は
「ね、これってどう
「ん、どうっていわれてもな」
笑いながら彼は先に行った。カンナは思い切り口を
「ねえ! あそこ。ほら、お
「ああ、それっぽいな。おい、山もっちゃん! ここだ! 俺はここにいるぞ!」
うちわ太鼓を
「ちっ、これでもわからねえか。――おい! 若造! お前だよ! 谷村新司と同姓同名の! ちっこい! あまり使えねえ若造!」
その声は届いたのだろう、二人は
「おい! 大声でなに言ってんだよ! それに、あまり使えないってのはどういうことだ!」
「いや、悪かったな。でも、山もっちゃんってんじゃ他にもいそうだろ? ああ呼んだ方が特定しやすいと思ってな」
若造は空を
「それにしてもお似合いじゃねえか。そうしてっと恋人同士に見えるぞ」
「は? そうか?」
「ああ、そうとしか見えないよ」
カンナは薄くなった毛を見つめてる。これまでハゲてるとか思ってごめんなさい。あなたって、けっこういい人だったのね――そう思ってるわけだ。
「で、どうした?」
「どうしたもこうしたもねえよ。俺は何度も電話してたんだぜ」
「電話? ――あれ? ねえな。ん、着替えたとき忘れちまったんだ。悪かったよ」
「ま、それはいい。ちょっとこっちに来てくれや」
二人は
「なるほど、そうか。じゃ、だいたいは固まったってことだな」
「まあな。だけど、
「向こうは気づいてるのか?」
「いや、わからねえ。
「ふむ。あんたはこれからどうする気だ?」
「いったんは
彼は細かくうなずいた。
「それにな、これは事件と関係ねえことなんだが、前から言っとこうと思ってたことがあるんだ」
「は? なんだよ」
刑事はカンナを見つめてる。頬はゆるみまくっていた。
「いや、まさか。それはないだろ」
「なに言ってんだよ。気づいてねえのはお前さんだけだぞ。俺はとうにわかってたし、谷村だって同じ意見なんだ。ま、そういうわけだから、それは気にしなくていいってことさ。いや、こっちにとっちゃ悪い話でしかねえが、こうなったらしょうがない。罪あるところに
刑事たちが去っても彼はぼうっと立ち
「ね、なに言ってたの? 私のこと見ながらなんか言ってたでしょ?」
「ん?」
「いや、たいしたことじゃないんだ。たいしたことじゃないんだが、ふむ、――いや、ちょっと待ってくれ。これは考えないとならないな」
「なに言ってんの? 大丈夫?」
ハゲのオッサンはかなり先まで行ってしまった。追おうにも人が多すぎて近づけない。
「ねえ、これからどうするのよ」
千春はまだ腕を組んでいる。声も不満げなものだった。
「ん、こうなったら
「じゃ、この前言ってた焼きそば屋さんに行ってみましょ」
千春は腕を引っ張った。そうしながら、カンナへ目を向けている。
「そうだな、行ってみるか。――って、千春、こっちだ。逆だよ」
「そう。ほら、カンナちゃんも行きましょ」
も? もってなによ。カンナは下唇を
「おっ、なんだい、今日は違う女を連れてのご登場かい? あんたも
「いや、そうじゃないんだって。これは、その、」
「まあ、いいってことよ。昨日のお姉ちゃんもかわいかったが、今日のはえらく
「爺ちゃん、やめろよ。ほら、」
「ん? あんたもいたのか。こりゃ悪いこと言ったな。もっと寄っておくれよ。お
睨みつけたままカンナは前へ出た。でも、なかなか近づけない。
トコトントコトンと音がする。話し声は
振り返っても人で
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