第21章-1
【 21 】
二人はいつもの格好で
「いや、
「そうですか?」
「ああ、それじゃ
オッサンは
「ま、今日は馴らし運転のつもりでいこうや。明日にゃ法被も持ってきてやる。ああ、そういや、あのお
カンナは顔をあげた。なんてこたえるんだろう? そう思っていたのだ。ただ、それだけではなかった。ここのところ元気がないっていうか、変な表情してることが多い。こういうのっていつからだっけ?
「あいつは仕事があるんで今日は無理だって言ってました。ま、明日は来るんじゃないですかね」
「そうかい。じゃ、あん人のも用意しとこう」
高らかに
「どうした? なんでそんな顔してる」
「別に。――ううん、違った」
トントントコトンと音がする。「それそれそれぇ!」と掛け声もあがった。
「最近、変な顔してること多くない?」
「変な顔? 俺のこと言ってんのか?」
「もちろんそうよ。そりゃいろんなことがあったから、――その、あの子は死んじゃったし、ペロ吉は見つからないし、それに、」
そう、それに千春ちゃんは
「いや、とくに変な顔はしてないと思うけどな。いつもの
「嘘よ。苦み走ったってとこもそうだけど、私のこと見るときも、こう、なんだろ? 申し訳ないっていうか、」
カンナは混乱してきた。――ん? ってことは、この人は私の気持ちを知ってて、でも、やっぱり千春ちゃんが好きだから申し訳ないってこと?
「ああ、そういうことか」
うちわ太鼓を
「だけど、ペロ吉はそろそろ見つかるはずだ」
「へ?」
「今日そのためのことをしてきた。もしかしたら店に来てるかもしれないな」
「えっ、じゃ、戻らない? ペロ吉が来てるかもしれないんでしょ」
「いや、そいつは後でいい。っていうか、まだ知りたくないんだよ」
「は? どういうこと?」
さらにわけのわからないことを言われてカンナは
「おっ、来たな、兄ちゃん。待ってたぜ」
「ああ、おやっさん、大変ご
「おうよ。ほれ、お前さんがいつ来てもいいように沢山つくっといたんだ。幾つ持ってく? 十個くらい持ってくか? ――ん、なんだ、そりゃ彼女か? いやぁ、ずいぶん若い子を捕まえたもんじゃねえか。おい、
青年は唇を
「おい、幾つにすんだ? ここにあるの全部持ってくか?」
「いや、さすがにそこまで食えないよ。――そうだな、じゃ、四つもらってくか。でも、おやっさん、ほんとにいいのか?」
「いいって、いいって。バイト代だよ。
カンナはふたたび考えこんでいた。ペロ吉に会うのは後回しでいいってのはどういうこと? まったく理解できるとこがないんだけど。
「明日も来てくれよ。明後日もな。なんなら一緒に働くか? きっちり
爺さんは袋を渡してきた。こうなるともう太鼓は叩けない。
「カンナ?」
「あ、はい」
「こいつを置きに一度戻るか」
そう言ったときにはまた
ごった返す
「焼きそば持って帰るだけで一大事業だな。ほんとすごい人だ」
「まったく。いったいどこから
カンナは乱れた髪を直してる。彼は薄くだけ笑った。
「なに?」
「いや、表現がな。湧き出ただの、潜んでるって」
「だってそうでしょ? いつもはうんざりするほどいないってのに、」
口を閉じ、カンナは奥を
「ああ、やっぱり来たな」
彼は奥へ向かった。
「ほら、入れよ。――って、大勢で来たな」
窓をあけると猫がうじゃうじゃ入ってきた。なるほど、この展開か。ん? ってことはやっぱりペロ吉が見つかったってこと? カンナは一匹ずつチェックしていった。――うーん、いないなぁ。ほんとどこ行っちゃったんだろ?
「ナア!」
暗い中から声が聞こえた。はいはい、大トリはこのお方ってことでしょ。満を持してのご登場、猫
「――ニャア」
「ペロ吉! ペロ吉なの?」
「どこ行ってたのよ。心配したのよ。でも、よかった。
ペロ吉は
「なに? 泣かないでいいって言ってるの? ごめんね、泣きたいのはあなたの方だもんね。――そうだ。これ、」
カンナは首輪をつけてあげた。ペロ吉は
「うん、これでいい。あの人がね、これはあなたにとって大切なもんだって言うから
ふたたび「ナア!」と声がした。顔をあげると茶色い身体が見える。キティの顔はいつもと違っていた。どこがどうとはいえないけど、そう思えたのだ。
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