第20章-8
「さて、どうしたもんかな?」
ガラス戸の先を
「なんだ? なんで暗いままにしてる?」
「ん? ああ、」
彼は電灯をつけた。刑事の
「どうした? 変な顔して」
「はっ、そりゃ、お互い様ってやつだろ。お前さんもそうとう変な顔してっぞ。――あん? それはどうしたんだ? カンナちゃんに引っ掻かれでもしたか?」
「違うよ。っていうか、カンナはそんなに引っ掻きそうに見えるのか?」
「そうじゃねえけどよ。その、なんだ、お前さん方ならそういうこともあるんじゃねえかって思ってな」
「なんだよ、それ」
彼はベビーカステラの袋を広げた。刑事はしげしげと見つめてる。
「ああ、こりゃ
「向かいに
「ふうん」
一つ
「で、
「ん、とりあえず今は
「それで、なにが聴けた?」
「いや、そっちが先だ。こっちはまだまとまってないんだよ。混乱してるんだ」
脚を伸ばし、彼は髪をかき上げた。目には光が入ってる。
「じゃあ、まずはそうだな、俺たちが馬鹿げた間違いをしてたことから言うか。すべての
「すべての前提が崩れる? なんのことだ、そりゃ」
「いいか? 山もっちゃん、俺たちは柏木伊久男を殺した奴を見つけようとしてた。あいつは
刑事は指先についた砂糖を
「いや、脅迫してたのは確かだし、俺たちを
外は
「まったく
「いいからつづけろよ。まだすべての前提は崩れてないぜ」
「わかった。じゃ、それを言うよ。あのな、柏木伊久男を殺した犯人なんていないんだ。あの
「はあ? なんでそうなる?」
「あらゆることがそれを示してる。しかし、その前に十二年前にあったことをお
「それで?」
「あの男は馬鹿だったんだよ。そのくせ、人がいいんだ。おせっかいなんだな。話にいっても
「それはこの前のおやっさんからも聴いたよ。それがどうしたってんだ?」
「いいか? 脅迫とビラだ。十二年前、柏木伊久男とそれが結びついた。いや、結びつけちまった奴がいるんだ。長谷川の子供だよ」
彼は立てた指を顔の前に持っていった。刑事は目をつむってる。
「なるほどね。そういうことか。――で?」
「平子の
「なにが言いたいんだよ」
「もし長谷川のカミさんが殺してたら
「そりゃ、やっぱり
「いや、違うね。人間はそう動くもんなんだ。まあ、行動パターンってのは何万通りもあるんだろう。
彼は指先を向けている。刑事は薄目をあけた。
「かもしれないが、それだって想像だよ。にわかには信じられんね」
「いいだろう。じゃあ、それでどうなったか想像で話すよ。これは最近のことだ。柏木伊久男は五年前に戻ってきた。その頃にはあいつの
刑事は
「ま、想像にしちゃ、できた話なんだろうな。ただ、
「はっ! 証拠っていうなら俺を捕まえたときだってなかったはずだぜ。あんとき俺は『証拠があるなら見せてみろ』って言った。それで、
「ふんっ! よくそんなの憶えてたな。もう忘れちまえよ」
「嫌だね。これは死ぬまで憶えてるよ。いいか? 山もっちゃん、ああいうストレスはずっと残りつづけるんだ。それは長谷川の子供にも残ってたはずだ。しかも、自分に
時計に目を落とすと彼は髪を
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