第19章-4
ソファに座ると彼は投げ出すように脚を伸ばした。
「なあ、『ふう』だの『はあ』っていったいなんなんだ? さっきも言ったが俺は
「ああ、悪い。ちょっと嘘について考えてたんだ」
「嘘?」
「そう、嘘だ。いいか? 山もっちゃん、俺は嘘が苦手なんだよ。つき通すことができないんだ。それはどうしてかって考えてたんだ」
時計に目を落とし、刑事は腕を組んだ。
「それは長え話か? 俺の方でもちょいと長いのがあるんだがな」
「いや、そこまで長くないよ。ほんの思いつきみたいなもんだから。――でな、山もっちゃん、嘘が苦手な人間にはすくなくとも二通りのタイプがある。一つは馬鹿で
鼻先を
「ま、いずれにしたって嘘つきは周囲の者の言動に
「そりゃ、いったいなんの話なんだ? だからなんだっていうんだよ」
刑事は目を細めた。さっきからカンナちゃんをちらちら見てっけどなんなんだ? そう思っているのだ。
「だからなんだってことはないよ。思いつきって言ったろ? でもな、これは
「いいぞ」とこたえ、刑事はソファに沈みこんだ。
「これは占いにも当て
最後の部分を聴いたとき、片方の
「一人の人間の意思でない? そりゃ、どういう意味だ?」
「俺は何度も言ってるぜ。あの爺さんはちぐはぐだって。その理由はわかってなかったが、なんとなく見えてきたことがある。――そう、前にはこうも言った。あれだけの
「あの爺さんは
「そう考えると理解しやすくなるんだよ。脅迫されてた者たちとの関係だってそうだ。
「ふむ、なるほどね。ようやく実際的な話になってきたな」
「違うよ。全部が実際的なんだ。あんたたちは表面しか見ていない。人間がどう動くかってのを深く考えず、目に見えてるものだけを追ってんだ。それじゃ嘘を見抜くことはできない」
外は
「ってとこで、あんたの番だ。柏木伊久男について教えてくれるんだろ?」
「ん、ああ、」
不満げな表情でうなずくと刑事は写真を
「その前に『ひさ江』の
「どういうことだ?」
「あの
店の裏手の写真が差し出された。黄色いプラスチックケースに
「この安酒は店で出してるのと違ってる。ま、高え酒の空き瓶にこいつを
カンナは写真を取った。彼は
「柏木伊久男は人当たりがよく、評判もいい男だった。俺はそれを本来の姿じゃないって思いこんでたんだ。しかし、違ってたのかもしれないな。もちろん脅迫はしてたんだろう。ただ、そのやり方というか、付け入り方は想像と違ってる。それには別に理由があったんだよ。それを理解するためにもあの男がどういう人間だったか知る必要がある。山もっちゃん、教えてくれ」
「わかった。――ええとな、」
手帳を取り出すと刑事は
「まず、生まれは川崎だ。けっこう
「ちょっと待ってくれ」
「あん? なんだ?」
「
下唇を突き出したものの刑事は手帳を
「ああ、ここだな。そう、蛭子
「ってことは、『悪霊』から抜けるよう
「ま、そういうことになるんじゃねえかな」
蓮實淳は鼻に指をあてた。目は半分閉じられている。
「柏木伊久男についてつづけるぞ。――えっと、ここだ。ふむ、まあ、あの爺さんも馬鹿じゃなかったようだな。あの時代で大学まで行ってるんだ、優秀ではあったんだろ。ただな、
「つまり、その三人の関係はそこから始まったってわけだ。そんとき、柏木伊久男はどこに住んでた?」
「ん、この近くだよ。線路向こうだ。
「線路向こう? なるほど。平子の婆さんと知りあいになったのはその頃なのか」
「平子の婆さん? おい、どうしてここであの婆さんが出てくるんだ?」
「柏木伊久男はその婆さんともつきあいがあった。
カンナは
「じゃ、そのお婆さんも殺されたってこと? それを
手帳を持ったまま刑事は固まってしまった。瞳だけが動きまわっている。蓮實淳はソファに沈みこんだ。そのとき、
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