第19章-3
蓮實淳はキティの話を聴いていた。表情は変わらず、鼻に指をあてている。ただ、
「陸橋から落ちて死んだ? なんか聞いたことがあるな。――ああ、
「葬式を? あの爺さんがかい? そりゃ初耳だね。でも、泣いてたのを考えるとそれは平子の婆さんなんだろうさ」
「泣いてたっていうのは?」
「ふうむ。吉田和恵ってのはビル
「たぶんね。ただ、そうなると
「ああ、ペロ吉んとこの子供と似たような死に方をしてるってんだろ?」
「そうさ。あの
彼は目を細めた。思考は
「つまり、柏木伊久男はその婆さんが死んだ原因を知ってたわけだ。それで殺されたのかもしれないってことだよな? その現場を今度は
「そう考えるとすっきりはするね。でも――」
「うん、そうだ。でも、俺たちを
弱く風が入りこんできた。外はすこしばかり
「そのことなんだけどね、アタシはもう手を引いてもいいように思ってるんだ。あんたも言ってたじゃないか。あの爺さんは脅迫相手と上手くやってたって。大和田も
「ああ、そうだ。だけど、そうなるとさっきの問題に戻るんだよ。なんであの男は俺たちを廃業させようとしたんだ? いつもそこで考えが止まっちまうんだ」
「それも言ってたじゃないか。あの爺さんにはちぐはぐなとこがあるって。それに、大和田のカミさんを見たときはこう言ってたよ。――もやもやしたガスみたいな存在って」
彼は目をつむった。脳の奥底にはまだその映像がとどまっている。
「うん、そうだ。あの爺さんにはちぐはぐなとこがある。いや、それ以上だ。脅迫状から読み取った人物像からも
「それをもう少し進めてみるんだね。それはどういうことだと思う?」
「それは、――そうだ。徹はこう言ってたな。『誰かの使いで来たみてえだった』って。それに、脅迫してた数の多さ、そして、その内容もだ。そこに二件の転落死をつけ足すと、――いや、
「どうなるんだい?」
蓮實淳は目をあけた。しばらくぼうっとしていたものの、じきに唇は
「あんた、前よりは見えてきたんだろ。そういう顔してるよ。なんとなく誰が犯人かわかってきたんじゃないかい?」
その床の下ではカンナが雑誌を読んでいた。たまに顔をあげ、外を
それを見たとき、カンナはクロ同様の感想を持った。――って、これなに? タコ? しかし、今はなにかわかってる。ポスターが何枚も
雑誌を放り、カンナは
「よっ、カンナちゃん、先生様はいるかい?」
唇は
「あ、うん。いるけど、ちょっと
「忙しい?」
ずかずか入ってきた刑事は肩をすくめた。
「って、いねえじゃねえか。どこで忙しがってんだ?」
「上。猫師匠が来てんの。そうなると
「猫師匠? 誰だそりゃ」
もう、いちいちうるさいなぁ。会ったことあるでしょ。そんとき変な顔してたじゃない。あの茶トラの、でっかい、
「ん? ああ、いいとこに来たな。っていうか、ほぼ毎日来てっけど暇なのか?」
「あのな、暇なわけないだろ。身体が幾つあっても足りねえくらいなんだ」
キティは出て行った。刑事は目で追っている。なるほど、これが猫師匠ってわけか――そう思ってるのだ。
「どうした?」
「いや、なんでもねえよ」
彼は目を細めてる。しかし、首を振りつつ奥へ向かった。
「ま、座っててくれ。いまコーヒー
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