第17章-6
「悪い。待たせたな」
「いや、大丈夫だ。でも、どうしたんだよ。突然会いたいなんて、なにかあったのか?」
「ん、ちょっと訊きたいことができてな」
「いい噴水だ」
「いい噴水? これがか?」
「だって、ずっとこいつを見てたんだろ?」
「はっ! 別にこんなの見ちゃいないよ。っていうか、店の真ん前だろ?
「久しぶりだったな。
「ああ。でも、年だからさ、ちょっとずついろんなとこが弱ってんだな、
ま、お前みたいな息子がいるんだ、愚痴くらいこぼしたくなるだろ。そう思いはしたものの、なにも言わずに彼は歩き出した。徹も
「うん、ここでいいか」
西池袋公園へ入ると二人は植え込みの前に掛けた。
「ほら、もっとこっち来いよ。
「ん、それで、訊きたいことってのはなんだ?」
徹は辺りを
「そうだ。俺が知りたいのは、お前がいま考えてることだよ。包み
「やめてくれよ、警察だなんだってのは。俺はもう悪さなんてしてないんだ」
「寄越せよ。ほら、つけてやる。――っていうか、ここで煙草
「でも、喫わないと落ち着かないんだよ。見てくれよ、手のひらも汗だらけだ」
「どんだけ
「俺にだってわからないよ」
けむりを
「まずは、
「おい、それマジで言ってんじゃないよな?」
そう言ったものの見つめられると徹はうつむいた。彼は溜息をついている。
「訊いたことにこたえろよ。お前は脅迫されてた。それだけでも動機になるんだ。まさか殺しちゃいないよな?」
「そんなことするわけないだろ。それに、あんなの脅迫とはいえないよ。月一で来てたから
「は? どういうことだ?」
「そのままのことさ。いや、確かに
二本目の煙草を
「先生もこの近くで飲み屋やってたって言ってたよな? だったらわかるだろうが、この辺は変な奴が多い。西ってのは
鼻に指をあて、彼は目をつむった。――そういや、大和田義雄も似たようなこと言ってたな。脅してきたけど、あの爺さんは悪気ない感じだったって。
「どうしたんだよ」
「いや、悪い。ちょっと考えてた。それでもお前は奢りつづけてた。それはその写真が警察にいったらヤバいと思ったからだよな。それだけじゃ
「ん、まあな。そういう感じだよ」
「いいか? 占ったときには気づかなかったが、お前はクスリにも手を出してた。柏木伊久男が見せてきたのはそれを買うときのものだったんだよな?」
煙草を放り、徹は強く
「なんでそんなの知ってんだよ」
「何度も言ってるだろ? 俺はなんでもお見通しなんだ。ほら、こたえろよ。お前はその写真を見せられたんだよな?」
「ああ、そうだよ。だけど、そんときにゃ、もうやめてた。でも、面倒事になるのが嫌だったんだ。親父にバレたら困るしな」
ふたたび目をつむり、彼は深く息を吐いた。鼻先に感じるリズムは思考を
「月一で来てた柏木伊久男の様子は?」
「普通っていうか、他の客と変わらない感じだったな。まあ、一応は脅されてたんだ、俺はけったくそ悪く思ってたが向こうは気にもしてねえ様子だった。帰り際に『いつもすみませんね』とか言ってね。まあ、俺たちはそれなりに上手くやってたってわけさ」
「ふむ、そうか。ところで、『あくりょう』がどうのこうのってのは聴いたことがあるか?」
「ほんとになんでもお見通しなんだな。ああ、聴いたことあるよ。若い頃にそういうグループっていうのかな、ええと、そう、『
突然ひらいた目に
「どうしたんだ? なんかマズイこと言ったか?」
「いや、そうじゃない。なるほど、そうか。それが『あくりょう』なのか。柏木伊久男はそのメンバーだったってわけだ」
「でも、ほんの一時だったって言ってたよ。高校の頃に引き込まれたけど、地元の友達に説得されてやめたって。その友達には感謝してるとも言ってた。だけどさ、そんときの顔つきが、こう、変というか――」
彼は指を向けた。徹は口を閉じ、目を寄せている。
「つづけてくれ。こう、変というか?」
「ああ、変というか、
指は力なく下りていった。――ふむ、『あくりょう』の意味は半分ほどわかったわけだ。柏木伊久男はそういう名前のグループに入ってた。しかし、それと
彼は立ち上がった。風がもじゃもじゃの髪を
「っと、先生! おいっ、どうしたんだよ!」
「ん、大丈夫だ。ちょっと
「嘘つくなって。顔が真っ赤だぜ。――ああ、こりゃ
「知らねえよ。でも、ほんとに大丈夫だって」
「大丈夫なわけねえだろ。でも、どうすりゃいいんだ? こんなとこじゃタクシーも
「歩けるよ。っていうか、一人で帰れるって。手を
声は小さくなっていった。口がうまく動かないのだ。
「ま、
「いや、今日は休みだ」
「そうなのか? でも、こんなんじゃ呼んだ方がいいだろ。先生、スマホはどこだ?」
「うるさいな。カンナは呼ぶな。その必要はない」
徹は引きずるように運んでいった。周りの者は
「必要あるよ。こんなの知らせなかったら、俺がカンナちゃんに怒られちまう」
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