第16章-2
ソファに座ると刑事は
「さっきのはどういうことだ?」
「さっきのってのは?」
「ほれ、北条に訊いてたろ? 約束の時間がどうのこうのって」
「ああ、気になってたんでね。前にも言ったよな? 六時に約束したから俺はあそこに行ったんだ。でも、あの男が来たのは六時をすこし回った後だった」
「それで?」
「いや、それだけのことだよ。どうしてそうなったか気になっただけだ。もちろん、あんたたちも調べてはいるんだろ?」
「ふむ。北条の言った通りだ。一緒に行くはずの男が時間を間違えたらしい。そんなことする奴じゃねえんだけどな」
カンナは奥へ向かった。千春は脚を組んでいる。
「で、なにかわかったのか?」
「ん、まあ、それもあるんだが、その前に
「それ、上のもんに言ってあるのか?」
「はっ! 俺の
「ふうん、今日は警察から詫びを入れられる
一度
「あのな、あの
「傷害致死?」
「そうだ。いや、もう五十年ほど前の話だがな」
「はあ、そういうことか。あんときも気になってたんだ。あんたたちはなにか
「結果的にはそうなるな。いや、これは単純なヤマだと思ってたんだ。トラブルのあった二人、片っぽは殺されてる。じゃあ、犯人は決まりだってな。それに、言い訳にもならねえが、あの爺さんの評判がよかったってのはその通りなんだよ。この辺の者はそういうマエがあるって誰も知らなかったんだ」
「でも、単純な事件じゃなかった。
刑事は
「そんなふうには思っちゃいないが、まあ、詫びさせてくれよ。そうじゃないと話が進められない。ほんと悪かった。この通りだ」
「山本さん、そこまでしなくていいんじゃないですか? だって、この男は――」
彼は指先を向けた。
「若造、
「はあ? なんで俺が、」
「谷村、お前もやるんだ」
「でも、山本さん」
「いいから。ほれ、」
無理に頭を下げさせると刑事は
「これでいい。ちょっとはすっきりしたよ。ところで、この
千春は胸を
「ん? カンナの
「それだけか?」
「それだけってのは?」
「いや、まあ、なんでもないがな」
目はカンナに向けられた。見られた方は視線を散らばしてる。彼はまた指を向けた。
「山もっちゃん、この二人なら大丈夫だ。早くわかったことを教えてくれ」
「ん、ああ、わかった」
刑事は紙を
HF80Y 0107 80
IM30S 0112 30
TM30W 0117 20
HM20Y 0117 20
OM10Y 0120 10
KM05M 0120 05
SM10T 0125 10
YF03H 0126 03
TM30W 0131 10
「なんだこりゃ」
「似た感じのが七枚ある。あとはこいつだ」
太い指が指した紙にはこう記されていた。
HF80Y 0110U4500AD
IM30S 0222K8010AD 1824
OM10Y 0401H3970GD 6775
KM05M 0709M7109VD 1523
HM20Y 0916J2193ND 2731
SM10T 1013L3986EF 1217
TM30W 1028R4753KE 3645
YF03H 1215C9563TE 6874
YF03K 0216D7590GE 4558
HM03Y 0326F6752UE 8085
NF05H 0412S0875DE 5966
「こりゃ、いったいなんなんだ?」
「あの爺さんの持ち物だよ。古びた手帳に書いてあったんだ。でも、最近のものみたいだな。インクでわかるんだとよ。もちろん、これを見たことは
山本刑事は
「警察はこれをどう見てるんだ?」
「今んところどうとも見てないな。上の者はお前さんを
「ああ、そういうオッサンがここにも来たよ。そいつは柏木伊久男がイカレた
「そりゃ平子の婆さんのことだな。ほれ、この近くの
「いや、俺に見えるのは人の経験だけだ。物からじゃわからないんだよ」
そう言ってる間に
「ん? どうした?」
「どうしたって、あなた、占いで警察に協力したりしてるの? 超能力探偵みたいに?」
超能力探偵? なんだそれ――そう考えてると、鼻を鳴らす音が聞こえた。
「若造、いま笑ったな」
「いいから、ちゃんと見てくれよ。なんかわからねえか?」
額に指を
「おっ、」
「なんかわかったか?」
「これ、俺の誕生日だ。『0120』ってのが二つ並んでる」
山本刑事はつんのめるようになった。唇は
「あっ、私のもあったわ。ほら、『0422』って」
「ほんと? 私のもあるかな?」
テーブルを覗きこんだカンナは「ふんっ」という声に顔をあげた。彼も眉をひそめてる。
「お前、さっきから『ふん、ふん』って言ってるけど、
「違うよ。馬鹿馬鹿しいと思ってんだ」
「でも、この四
「はっ、そんなのはわかってたことだ。四桁なんてのはだいたいが日付だろ? 馬鹿にだってわかるさ」
「ほう。さすがは若造刑事だな。目の付け所が違う。じゃあ、その天才刑事若造様にお
山本刑事は首を曲げた。
「俺はヒントをあたえてたんだぜ。お前だって聴いてるはずだ。ほれ、自分は馬鹿じゃないってなら、教えてくれよ。この記号はいったいなんなんだ?」
「そりゃ、たぶんイニシャルだろ」
「なるほど。だけど、アルファベットが三つもあるぜ。それに数字も入ってる。これのどこがイニシャルなんだ?」
「それは、」
「それは? ほれ、言えよ。わからねえのか? ――はっ! 声まで小さくなりやがったな。いいか? テメエでもわからねえことで人を小馬鹿にするな。これも人間の基本だぞ。基本事項その二だ」
立ち上がって若造は
「さっきから、『若造、若造』ってうるさいんだよ。俺には谷村って名前がある」
「ああ、そうだったな。――ん? ってことは、この『TM30W』ってのはお前のことか? 『T』が谷村で、『W』が若造だろ? 谷村若造。ほらな、こりゃ、お前の名前だ」
「違うって言ってるだろ! 俺は谷村若造なんかじゃない! ちゃんとした名前があるんだ!」
「へえ、そうなのか? じゃあ、なんていうんだ? ああ、『W』ってことは谷村わっぱ
「わかった! そこまで言うなら俺の名前を教えてやる!」
山本刑事は顔をあげた。そんなことしたらこの下らない時間が長引くと思ったのだ。しかし、手遅れだった。
「俺は! 俺の名前は! 谷村真治だ!」
「タニムラシンジ? それって、あれか。アリスのか? 『
「いや、字が違う。真実の『真』に政治の『治』だ」
荒く息を
「ふっ、」と声を
「タニムラシンジって、あの鼻にテープつけてる人でしょ? だいぶ前に見たことあるわ」
「違うわよ、カンナちゃん。あれは
そう言いあって、二人は腹を
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