第15章-2
「あの、悪いけど、ここ
「ああ、そうなのか。そいつは悪かったな」
「いいえ」
そうとだけ言って、カンナは目を細めた。舎弟の向けてくる視線が気に入らないのだ。――ほんといやらしそうに見てくるな。それだけで
「で、なんの用だ? 俺は
「ま、そうだな。でも、こっちはまだお前さんを
「アリバイがあるってのにか?」
「そうだよ。というか、俺はそれも疑ってるんだ。あの
山本刑事はそこでカンナを見た。
「身内が頼んだとも考えられる。たとえば、
鼻で笑うようにして、カンナはそっぽを向いた。彼の方は身を乗り出してる。
「おい、
「ふんっ、俺は谷村っていうんだ。若造なんかじゃない」
「ああ、そうだったな。でも、下は若造っていうんだろ? 谷村若造。いい名前だ。親に感謝しろよ」
カンナは「くっくっくっ」と笑った。それが気に
「お前みたいな奴に馬鹿にされる覚えはない。はっ! インチキ占い師のクセしやがって。いいか? 今度のことじゃ
山本刑事は腕を引っ張ってる。「いいから座れよ」と言いたいのだろう。
「山本さん、馬鹿にされて腹立たないんすか? この男は普段から詐欺まがいのことしてるかもって言ってたじゃないですか。もう一度引っ張って、
蓮實淳は
「ちょっと! どういうつもり? インチキだの、詐欺だのって! いい? この人は本物なの! なんでもお見通しの先生なの!」
「なんでもお見通し? 馬鹿言うなよ。だいたいな、占いなんてのは全部インチキなんだよ。適当になにか言ってりゃ、一つくらい当たってる。そういうもんだろ?」
「はあ? なによ、そのオッサンみたいな
「偏見なんかじゃない。いいか? 君も
「いいわ! そこまで言うなら占ってもらいなさいよ! あなたが
彼は
「ほら、どうするの? あんだけ言ったのに怖くなっちゃったの?」
しょうがねえなといった感じに立ち、山本刑事は
「いや、ほんと済みません。うちの若いのが失礼なこと言って。――谷村、お前も
「駄目よ!」
カンナは
「今さら
助けを求めたのだろう、若いのは目を向けてきた。ただ、当然のことに助けてもらえるはずもなかった。
「ほら、どうするの? この若造くんが怖いってなら、あなただっていいのよ」
「え? 俺か?」
山本刑事は大きく口をあけた。その顔を
「じゃ、やるか。山もっちゃん、肩の力を抜け。――そうだ、いいぞ。心を開けっぴろげにするんだ。俺が嫌いでも、この瞬間だけは信じようとしろ」
山本刑事は
「そのまま頭も空っぽにするんだ。で、俺をじっと見ろ」
目は大きく広がっていった。それまでしていたのとは明らかに違う表情だ。カンナはまじまじと見てる。――苦しそう。人の過去を見るのってキツいんだろうな。それをこの人はいつもしてるんだ。
「ふむ、なるほど。うん、そうか。――まず、あんたはバツイチだ。十年くらい前に離婚してる。奥さんは高校の同級生で、つきあいも長かった。しかし、よくあることだがあんたは
山本刑事は鼻を鳴らした。顔つきは変わっていない。
「それと、あんたはラグビーをしてたね。ま、その
深く息を
「
刑事は目を閉じている。
「悪いな。なにも悲しませようってわけじゃないんだ。ただな、こうも思うんだ。あんたは重荷を背負ってる。持ちきれないほどの重荷をね。
「
「余計なお世話ついでに言っておく。暗い話だけってんじゃ、つまらないからな。あんたは毛が薄くなってるのを気にしてるね。それで、最近毛生え薬を買った。シャンプーもいろいろ試してるようだな。スカルプケアってわけさ。それに、ワカメだのヒジキだのも食べるようにしてる」
身体を起き直らせると刑事は横を向いた。若造の頬も引きつってる。しかし、その理由は違っていたようだ。
「谷村、お前、笑おうとしたか?」
「いえ、まさか」
「山もっちゃん、そんなに強く出ない方がいいぜ。まだあるんだ。あんたは子供の頃の
勢いよく手を伸ばし、山本刑事はテーブルに
「わかった。よくわかった。お前さんは本物だ。
「俺にも会わせてくれよ。どんな声でしゃべるのか聴いてみたい」
「わかったって。もうそれ以上は言うな。頼む」
顔をあげた刑事はカンナの視線をたどった。若造は
「テメエ、コノヤロー! なにそんな
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