第15章-5
一時きっかりに刑事はあらわれた。
「いや、まだ暑いな。歩いてきたからこの通りだ」
彼は目を細めてる。振り返り、刑事は肩をすくめた。
「ん? どうした?」
「いや、今日は一人なんだな。あの
「ああ、谷村は聴き込みに行ってる。ところで、
カンナは唇を
「隣にいるから、なにかあったら呼びに来てくれ」
蓮實淳は無表情で押し通した。笑ったりするなよ。そう言ってるつもりだ。でも、それだっておかしい。雑誌で顔を
「わかった」
二階席はほどよく冷えていた。
「で、聴かせたい話ってなんだ?」
「その前にこっちの質問にこたえてくれ。あの
「ふんっ、なんでそんなの教えなきゃならない。それは
つかえたものを流し込むように刑事はアイスコーヒーを飲んだ。目許は笑ってる。
「忘れたのか? 俺はもう容疑者じゃない。アリバイだってあるんだ」
「
「オーケー。じゃ、俺も容疑者の一人ってことでいい。その上で訊くよ。俺の他に爺さんを殺す動機のある奴は見つかったのか?」
笑みは消えた。そのままじっと見つめてる。溜息まじりに彼は腕を組んだ。
「言いたくないってか。じゃ、違うことを訊くよ。あの爺さんのパソコンには沢山の写真があったんじゃないか?」
「なんでそんなこと知ってる?」
「俺はなんでもお見通しだからな」
「はっ! ふざけるな。ほら、ちゃんとこたえろよ。なんで知ってる?」
「パソコンにはビラの元になったデータがあったんだろ? これはあんたが教えてくれたことだ。それに、二度目のは写真付きでカンナのは隠し撮りされたものだった。それだけじゃない。あの爺さんがカメラ持って出歩いてたのは誰でも知ってるよ」
「なるほど。
「だろ? ってことは、あんたたちはそれも調べたんだよな? そこになにか写ってなかったか?」
刑事は
「質問の意味がわからねえな」
「しらばっくれるなよ。いいか? あんたたちは俺を犯人と思ってた。でも、そうじゃない可能性が出てきた。つまり、わかりやすい動機を持つ者が
「ま、そうなってもおかしくはないな」
「だよな? 俺は二時間ドラマをよく見てっからな。それくらいのことならわかる」
「二時間ドラマだと? はっ! あんなの嘘っぱちさ。なんにもわかってねえ連中がつくってんだよ」
「でも、当たってる。そうだろ? あんたたちはうんざりするほどの写真を一枚一枚見てるはずだ。違うか?」
「なんでそこまで写真にこだわる?」
蓮實淳は立てた指を前へ出した。相手の目は自然とそこへ向かっていく。
「もうひとつ訊きたい。あの爺さんの
「金回り? ――ちょっと待て。あの爺さんが
「
「
いや、あれは地だけどな。そう思いながら彼はコーヒーに口をつけた。窓の外は明るく輝いてる。
「なるほどね。なんとなくわかってきたよ。お前さんは誰かを
「そうなると、俺は容疑者じゃなくなるな」
「いや、
「
「ああ、いや、すみません」
ニヤつきながら彼は鼻に指をあてた。山本刑事は
「
「なんでそう思う?」
「あんたは今日ひとりで来た。それはこうなるって思ってたからじゃないか? 捜査情報ってのを話すかもしれないと思ってたんだ。それはなぜか? こたえは簡単。俺を信用してきたのさ。容疑者だなんてもう考えてないんだ。それに、顔つきだってそうだ。取調室でしてたのとは違ってる。こう、――そうだな、
「はっ! そんなんじゃねえよ。そりゃ、お前さんの見込み違いだ」
「いや、それこそ違うね。占ったときわかったんだ。あんたは事を急ぐ
「だからなんだってんだ?」
「あんたは素直で、
指先を向けると刑事は溜息を
「山もっちゃん、こっからは友人同士のおしゃべりだ」
「俺は友達になんてなってねえぜ」
「いいから聴けよ。これはあんただから話すことだ。他の誰にも言うなよ」
彼はじっと見つめてる。うなずくのを待っていたのだ。それがわかったのか
「俺はな、あのとき
「はあ?」
「どういうことだ?」
「どうもこうも、あれは嘘なんだよ。でも、俺が頼んだんじゃない。向こうが勝手にやったことだ。どうしてそうしたのかもわからないんだよ」
「ふむ。――で?」
「俺にはアリバイがないってことだ。でも、やっちゃいないし、犯人も知らない。脅迫されてた人たちに心当たりはあるけどね」
「人たち? 複数いるってことか?」
「ああ、俺のわかってる
「ん、――まあ、そうも考えられるな」
「だよな。でも、そう思いたくないんだ。だから、あんたに助けてもらいたんだよ。刑事にじゃなく、友達にね」
言葉を切ると彼はまたじっと見つめた。刑事は「つづけろよ」とだけ言った。
「助けて欲しいってのは、こういうことだ。あんたには蛭子の奥さんや、これから言う三人があの日なにをしてたか調べてもらいたい。なに、こっちでも調べはするが、警察のようには上手く立ち回れないからね。それと、脅迫されてたのが他にいるかも調べてくれ。他にも絶対いるはずだ。たぶん、表面上は親しく見えた者の中にいるはずなんだ。これは全部あんただけでやるんだ。なにかわかったら教えて欲しい。俺もわかったことはすべてあんたに言う」
「警察ってのはそういうふうに動くもんじゃない」
「だとしてもだ。いいか? 山もっちゃん、簡単にやっちまったら、もっと
「わかったよ。わかった。でも、一つだけ言っておく。俺たちは友達じゃない」
笑いながら彼はコーヒーを飲んだ。えらく
「今はそうじゃないかもしれない。ただ、いずれそうなるよ。俺はこれでも人気者でね、友達になるのも予約が必要なんだ」
「はっ! いいかげんにしろ。お前さんと話してると頭が痛くなってくる。――だが、すべてが間違ってるわけじゃねえな。
「あの
彼は椅子にもたれかかった。しかし、ここは
「ま、いいか。だけど、あいつとは友達になれそうにないな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます