第14章-3
「
そこまで言って千春は口を閉じた。手には《
「ま、いいわ。はい、これ。
「出所祝いって、俺はムショに行ってたんじゃないんだぜ」
「似たようなものでしょ。でも、顔色もいいし、元気そうじゃない。あなたのことだから、もっとひどい感じになってるかと思ってたけど」
カンナはコーヒーを
「そういや、俺のこと心配して寝込んだらしいじゃないか。仕事まで休んだんだろ? ほんとめずらしいよな、仕事休むほど具合悪くなるなんて」
「え? なんのこと」
「カンナに聴いたぞ。俺のこと心配して倒れちまったって」
手を止め、カンナは首を振った。――もう、ほんとデリカシーがないんだから。それに、そんなこと言ったら、こっちにとばっちりがきちゃうじゃない。溜息をついた瞬間に千春はこう言ってきた。
「ちょっとぉ、カンナちゃん、そんなこと言ったの? あれは別にそういうんじゃないの。ちょっと生理が重くて、気持ち悪くって、」
はいはい、わかったから。ほんと
「だいいち、なんであなたを心配して寝込んだりするのよ。馬鹿なんじゃないの?」
「
カンナはふたたび溜息をついた。なんだか
「でもな、そんだけ心配してたんなら会いに来てくれりゃよかったんだよ。警察じゃ
「ね、食べましょうよ。ほら、すごく美味しそうよ」
平常心、平常心――心の内でそう
「なんで警察なんかに行かなきゃならないのよ。馬鹿にもほどがあるわ。そりゃ、心配はしたわよ。当たり前でしょ? あなた、
「違うね。俺は殺人で逮捕されたんじゃない。
「そんなのどうだっていいわよ!」
フォークを
「よくはないよ。殺人で逮捕はさすがにマズイだろ? それに俺は
「でも、テレビじゃ人殺しで捕まったみたいに言ってたわよ。私、ほんとに二時間ドラマみたいって思ったわ。
「はあ? なに言ってんだ? 俺が現実とドラマの区別もつかないくらい馬鹿ってことか?」
「だって、それくらい馬鹿でしょ?」
彼もフォークを突き出してる。――もうやめてよ。それに、さっきからなに言ってんの? いつもこういうわけのわからない
「いや、さすがにそこまで馬鹿じゃないぞ。現実とドラマの区別くらいつく」
「ううん、それくらい馬鹿よ。前にもあったでしょ。ほら、映画の後で気持ちが大きくなって、」
「ね、そういうのって二人きりのときにしてくれない?」
カンナは立ち上がっていた。そして、「あれ?」と思った。どうしちゃったんだろ。なんかすごく
「それか、私がどっか行けばいい?」
「え?」
フォークをおろし、千春は顔を向けてきた。彼も
「どうしたの? カンナちゃん」
「だって、」
平常心、平常心――そう唱えてみたものの、涙は
「ごめんなさい。私、ちょっと出てくる。お客さんが来たら電話して。すぐ戻るから」
そう言って、カンナは外に出た。
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