第14章-2
当たり前の日常が戻ったとはいえ、以前のようにはいかなかった。予約はほぼすべてキャンセル、飛び込みのお客さんだって来ない。ただ、理由はわかりきっていた。テレビが『
「こんなだと
ガラス戸の前にはマスコミの連中が集まっている。ごく
「それにしたって、『自称』ってなによ。失礼じゃない? あなたはちゃんとした本物の占い師なのに」
雑誌を放り、カンナは腕を組んだ。黒いTシャツには『So What?』と書いてある。彼は薄くだけ笑った。――いつもの場所に戻ってきたんだな。
「なんなのよ、その顔は」
「いや、別に」
「腹は立たないの? 馬鹿にされてるのはあなたじゃない」
「立たないではないけど、それほどでもないな。好きに言わせときゃいいんだよ」
カンナは唇を
「取材を重ねるたび、独り暮らしのご老人が多いことに心が痛みます。この近辺では以前にも七十一歳の女性が
「は? マジで言ってんのか?」
「そうよ。この馬鹿げた
カンナが出ていくと彼は首を伸ばした。――まったく行動力だけは人一倍持ってるな。それで働かされるのは俺なんだけど。そう思ってる内にもマスコミの連中はぞろぞろ入ってくる。
「さ、順番に占ってもらって。それが終わったら、一つだけ質問していいわ。だけど、嘘を言ったりするようなら、こちらにも考えがあるのでそのつもりで。ま、占ってもらえばわかるけど、うちの先生は『自称』なんかじゃないの。なんでもお見通しのすごい人なんだから。――で、誰からにするの?」
マスコミの連中は互いを見合ってる。「なんでもお見通し」なんてハッタリに違いないとでも思っているのだろう。
「じゃあ、私が、」
レポーターの女性が手を挙げた。軽くうなずきながらカンナは奥へ向かってる。とりあえずコーヒーくらい出しとくか――そう思ったのだ。
それから彼は五人連続して占った。
「ふむ。あなたはけっこうな借金がありますね。それもギャンブルで
「あなたはいま離婚を考えてますね。奥さんが
本来の自分を出しつつ彼は占いつづけた。
「ええと、あなたには新しい彼氏ができましたね。彼は若く、
中年男は腕をつかみ、片手で
「いいでしょう。違う話にしましょうか。――うん、あなたは
占いが終わると全員が
「じゃ、お待ちかねの質問タイムね。――っていうか、皆さん大丈夫? 訊きたくないってなら、それでもいいんだけど」
借金まみれの女性レポーターが背筋を伸ばした。顔は青くなってるものの、声だけはくっきりしている。
「では、私から。――えっと、釈放されたのはあなたが事件と無関係だからなんですか?」
「いや、まったく無関係とはいえないでしょう。第一発見者でもあるし、
「なるほど。それで、そのトラブルなんですが、」
「ああ、駄目。あなたは終わりでしょ。質問したかったら、また占ってもらってからにして。――じゃ、次の質問ね。誰がするの?」
「じゃあ、私が、」
夫婦交換してるアナウンサーが手を挙げた。顔にはびっしりと汗が浮かんでる。
「あなたにはアリバイがあるということですが?」
「その質問でいいの? 一回だけなのよ。それで大丈夫?」
考える表情をしたもののアナウンサーはうなずいた。蓮實淳は
「そうですね。だから、警察も釈放せざるを得なかったんですよ。ま、
マスコミの連中はふむふむと聴いている。先制パンチが
「さ、これでわかったでしょ? うちの先生は亡くなられた方を助けにいっただけなの。だって、お
彼は
「じゃ、代金はここで頂くわ。一人二万円。領収書が欲しい人は言ってね」
マスコミの連中は
「え? なに? 今度はなにがあったの?」
戸口に立ったまま千春は
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