第13章-6
エビ茶は歩き出した。
「いやぁ、今日はよくしゃべるな。それも、これまでみたいに
「だったら、こうは考えないのか? 俺は警官の立ち会いのもとで謝罪に行くはずだったんだ。六時にだ。それなのに、その直前に殺したことになってる。おかしくないか? 警官が来るのがわかってるのに殺すか? それとも、それくらい馬鹿だと思ってるってことか?」
「いや、馬鹿とは思ってないよ。
向けられた顔はニヤついたものだった。彼は目を細めた。若いのは
「それについちゃ、こう考えることもできる。被害者が謝罪を求めたのは俺たちにお前さんの悪事を伝えるためだった。まあ、本当のことはわからないが、すくなくともお前さんはそう考えた。だから、その前に殺した。どうだ? これなら、さっき変だって言ってたのも丸く収まるだろ?」
「あくまでも俺を犯人にしたいってことか」
「ま、そうなるな。前にも言ったが、被害者は
彼は立ち上がろうとした。しかし、若いのに押さえつけられ、腰をおろした。
「まさか、カンナのことじゃないよな?」
「毒殺なら女にだって出来る。この件もそうだったのかもしれない」
「はっ! まったくあんたたちは
身体を
「ん? どうした? お前もそろそろなにか言った方がいいんじゃないか? ああ、『
「コイツ――」
「どこまでも馬鹿にしやがって。山本さん、ほんとに痛めつけてやりましょう。俺はもう
「
「そうだ、谷村。やめとけ。手を離すんだ。――でもな、お前さんがそんな調子だと、いつかはコイツも
「ちょっとばかりお前さんのペースに巻き込まれたようだな。もったいないことしたよ。いいか? これから訊くことには素直にこたえてくれ。あの日、お前さんは何時に出た?」
「それだって何度も言ってるぜ」
「いいから、こたえてくれ。何時に出たんだ?」
「五時半くらいだったな。そのほんの少し前だ」
「そのまま被害者
「
目だけが上がった。そのまま、じっと見つめている。
「無駄口は叩くな。時間がもったいない。こたえてくれ」
「いや、そのまま向かったんじゃないよ。ちょっと寄るとこもあったし、六時の約束にはまだ
「どこに寄った?」
「どこに?」
「ああ、どこに寄ったんだ?」
彼は鼻に指をあてた。やっぱり変だ。このオッサンは
「こたえろよ。どこに寄った?」
テーブルをつかみ、エビ茶は顔を近づけてきた。息が吹きかかるほどの
「言ってくれないか。じゃあ、訊き方を変える。その時間に誰かと会ってたか?」
ん? 蓮實淳は目をつむった。――ああ、そういうことか。カンナの質問だ。それに「『悪霊』のお
「なるほどね、わかったよ。その時間に俺と会ってたって奴が出てきたんだな?」
「さてな。ほら、こたえろ。どうなんだ?」
「ああ、会ってたよ」
彼は指を向けた。これといった表情は浮かべていない。
「誰と会ってた?」
「
「ふむ。そうか。――谷村?」
「あ、はい」
「だとよ。そう言ってきてくれ」
若いのは頭を振りながら出ていった。その後は
「俺はな、お前さんが犯人でありゃいいって思ってるんだ。これまでいろんな奴を相手にしてきたが、お前さんはその誰より
「ああ、そうかい。でも、そのうち好きになれるかもしれない。俺はつきあいはじめると味わい深くなっていくタイプなんだ」
首を戻し、エビ茶は
「はっ! そんなことにはならねえよ。なるわけがない。――ま、いったんは出てってもらうことになる。蛭子嘉江ってお方がな、その時間にお前さんと会ってたそうだ。羊羹まで出したか知らねえが、離れですこし話したと言ってきたんだよ。そうなるともう駄目だ。時間的に合わねえんだよ」
「そりゃ、残念だったな」
「ああ、ほんと残念だ。でも、これからもたびたび会うことになるぜ。お前さんが殺した。俺はそう信じてる」
「さっきはこれ以上会いたくないって言ってたぜ」
「それでもだ。仕事に個人的な感情を持ち込んじゃいけねえからな」
ドアが開き、若いのが顔を出した。蓮實淳はゆっくり立ち上がった。エビ茶は
「蛭子嘉江ってのは被害者宅の
「どうもそうらしいね」
「それに、あの一帯の
蓮實淳はドアの前まで行った。出ようとしてるところにこう声がした。
「どうもいい知りあいがいるみたいだな、お前さんは」
身体は
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