第13章-1
【 13 】
走っては振り向き、キティはまた走った。あとを追うカンナは息が上がって苦しい。もう、どこに連れて行こうってのよ。え?
「ちょっと待ってよぉ。もう少しゆっくり走って。私、ここんとこ運動不足で、」
「ナア!」
キティは
「なにやってんの? あのヘリコプター」
カンナは
「えっ、ちょっと。待ってって。ちょっと待ってよぉ」
段差を
「ナア!」
「今度はなによ」
そう言ったもののカンナは振り返ってみた。「あっちだよ。見てみな」と言われたように感じたのだ。
「は? どういうこと?」
細い道にはパトカーが
「
「なにかご用ですか?」
腹の
「えっと、――その、猫が」
「ああ、あちらはお
「へ? そうです。うちの猫なんです」
警官は辺りを見渡した。上空からはヘリコプターの音がしている。
「じゃ、ちょっとだけ入ってもいいですよ。でも、捕まえたらすぐ戻って下さいね」
軽くうなずき、カンナは
「キティ、戻るの。どうしたのよ、こんなとこ入っちゃって」
カンナはバイクを見つめた。やっぱり、これはあのジジイが乗ってたヤツだ。ってことは? ――いや、わからないな。なにかあったんだろうけど、それとあの人がいないのはどう
「ほら、怒られる前に戻ろう」
抱き上げるとキティは素直に
「捕まえられましたね。いえ、私は猫が苦手でして」
「はあ。でも、なにがあったんです?」
「――いや、ちょっと、その、」
うつむいてカンナは唇を
「あの、お
顔をあげずにそう言い、カンナは路地から
「ナア!」
突然キティが暴れだした。
「って、痛い! なに? どうしたのよ!」
そう言ってる間に肩まで上がってきた。それから、お
「ほんとなんなの? ねえ、キティ、ちゃんと教えてよ。あの人はどこに行っちゃったの?」
「ナア!」
とことこ走ってキティは
「まさか、遊んでるわけじゃないでしょうね。――ね、さっき警察がいたとこって、あのジジイの家なんでしょ? なにがあったの? それと、あの人がいないのは関係あるの?」
「ナア」
弱々しく鳴き、キティは尻尾を振った。
「ね、教えてってば」
門の前まで来るのを待って、キティは内側へ飛び降りた。そこから、「ナア! ナア!」と鳴く。
「もう! どうしたらいいのよ!」
カンナは顔を
「はい、どなたですか?」
「あの、私、蓮實淳の助手で、――その、こちらにも伺(うかが)ったことがある」
「ああ! カンナさん?」
その声は
「はい、そうです」
「すぐ行きます」
薄く門がひらいた。ゆかりは辺りを
「大変なことになりましたね。私もお
「はあ」
「まさかあんなことが。だって、蓮實先生は昨日も来てたようなんです。お義母さんと話されたって言ってました。それが、突然こんな――」
「あの、すみません。私、まだ
肩を落とし、ゆかりは
「そうだったんですか。私はてっきり、」
「なにがあったんです? うちの先生はどうしちゃったんですか?」
「うちのアパートで人が殺されたんです。裏にある、あのアパートで」
指の向いた方を見ると、ベランダで警官がなにかしてる。あのジジイが殺されたってこと? でも、それがどうしたっていうの?
「それで、うちの先生は?」
「蓮實先生はその犯人じゃないかってことで警察に。いえ、絶対そんなことありませんよ。なにかの間違いです。だって、先生がそんなこと――」
カンナは
そう考えながらも身体は沈みこんでいった。力が入らないのだ。意識が薄らいでいくとき、キティの声を聞いた気がした。それは、「ナァ」と弱々しく耳に入りこんできた。
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