第12章-4
ブザーが鳴り
あてがわれた数字での
「よお、お早うさん。
そう言ってきたのは昨夜も顔を合わせていたエビ茶のスーツを着た男だ。
「
エビ茶は
「これ以上流行らなくていいんだよ。
「はっ! 一人ぼっちにさせときゃ
「なんでもお見通しの蓮實先生だってんだろ? わかったって。それは何度も聴いた。もう言わなくていい」
「で、昨日のつづきだ。なんであの
「だから、やってないって言ってるだろ。どうして俺が殺さなきゃならないんだよ」
「お前さん方にはトラブルがあった。その二人が会ってるときに片方が死んでる。その上、被害者は評判のいい人物で、
「あんたたちはちゃんと調べたのか?」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。あの爺さんについてちゃんと調べたのかって意味さ」
刑事は
「ふうん、なるほどね。――いや、現場で話したのがいるだろ? そいつによるとお前さんは全部話してなさそうだとのことだった。俺もそう思えてきたよ」
「ああ、あのオネエ
そう言うと、「うっ」と声がした。若いのは口を押さえてる。
「はっ、オネエ刑事か。まあ、別にそう呼んでもいい。で、どうなんだ?」
「どうってのは? もっと具体的に訊いてくれよ」
「だから、あの爺さんのことでなにか知ってることがあるのかって訊いてるんだよ」
突き出た顎先を見つめながら彼は考えた。しかし、こうとだけこたえた。
「いや、よくは知らないね。
腕を組み、エビ茶は
「ふんっ、まあ、いいだろう。じゃ、質問を変えるぞ。なんであの部屋に入ったりしたんだ?
「開いてたんだよ。風が強くてドアはバタバタいってた。だから、気になって見にいったんだ。なあ、これも三十回くらい訊かれてることだぜ。何回同じこと言わす気だ?」
「何度でも」
そう言ってエビ茶は
「何度だって訊くよ。俺たちが納得するまでね。――じゃあ、そうだったとしよう。確かに風が強かったし、雨もひどかったよな。だから、お前さんは雨宿りしてたってわけだ」
「そうだよ。六時前に警官と待ち合わせてたんだ。でも、なかなか来ない。そのうちに
「そしたら、ドアが風に
「ああ、そうだけど?」
その声はすこし
「ドアが開いてて、お前さんは中を
「ま、いいだろう。その通りだよ」
「なるほど。いや、よくできた話だ。ところで、これは一般的なことだが、
「だから?」
「だから、不思議なんだよ。お前さんの話は信用ならないってことになる。いいか? お前さんは開いてるドアから覗きこんだんだよな? まあ、それだってあり得る話だ。ただ、戸口に立ってたら、倒れてる爺さんは見えなかったはずなんだ。しゃがんだりしない限りはな。お前さんはしゃがんだのか?」
「ああ、しゃがんだんだ。で、倒れてるのを見た」
「どうして? なぜ、しゃがんだ? それじゃ、まるで倒れてるのを知ってたみたいじゃないか」
「それは――」
蓮實淳は顔をあげた。エビ茶は
「なんでもお見通しの先生様だからわかったなんて言うなよ。普通に考えて、お前さんの行動はおかしい。ドアの前に立ったとこまでなら理解できる。でも、その後は
「だからなんだよ」
「俺たちはこう思うってわけさ。お前さんの言ってるのは全部嘘か、
彼は腕を組んだ。目は
「猫に教えてもらった」なんて言っても信用されないだろうな。まあ、そうなったところで
「ほら、どうした? さっきまでの元気はどこにいっちまったんだ?」
意地の悪そうな顔でエビ茶は覗きこんできた。
「
ふたたび脚をひらき、彼は首を振った。
「よく聞くよな、そういうの。警察の
デカい
「てめえ! 俺たちを
「そうだよ。舐めてかかってる。なあ、もっと話のわかる奴を連れて来てくれないか? あんたの顔は
これには若いのも飛び上がるようにして立った。首まで赤黒くなっている。
「山本さん、コイツ、痛い目にあった方がいいんじゃないですか?」
「ふんっ!」
エビ茶は
「やめろ、谷村。そんなこと言ってもこの男には
蓮實淳は椅子に背をつけた。――ふうん、山本と谷村っていうのか。そう思いながら
「すぐ戻る。お前さんはちょっと頭を冷やしとけ」
出て行こうとしてるところへ彼は声をかけた。
「なあ、あんたたちは気にもしてないようだが、俺と約束した警官はなんで六時に来なかったんだ? それは調べたのか?」
「あん?」
エビ茶は
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