第11章-1
【 11 】
この頃から彼らの店には変なお客さんがちらほらやって来るようになった。ビラを見たとは考えにくいものの、そうとしか思えないほど
「――で? それだけですか? もっと、こう、これは調べられないってのを言ってくれなきゃ信用できないわ。それとも、やっぱりインチキだからわからないの?」
笑顔を
「ふむ。あなたは下半身に病気を持ってますね? それで大変悩まれてる。違いますか?」
「ええ、まあそうですけど、他にもっと
一瞬だけ彼は
「わかりました。じゃ、言いますよ。あなたには子供の頃からの悪い
女の目は
「しばらくはしてなかったようだが、下半身の病気――イボ
突然立ち上がると、女はひどい
「黄色い箱の薬――もちろん、痔の薬ですね。あなたはそれを万引きした。しかも、三つも。まあ、
「
「証拠? イボ痔のですか? それとも万引きの?」
「もちろん万引きのよ!」
「ああ、そうですか。ま、証拠にはならないでしょうが、私には見えたんです。あなたが万引きしてるとこも、――その、鏡の前で大きく
「どうやってそんなことまで調べたの! 誰に訊いて回ったのよ!」
指先を向け、彼は唇を
「調べたんじゃないですよ。あなたがイボ痔であることなど調べるはずもない。私は人の
「だから、そっちじゃないって言ってるでしょ!」
「はあ、これも万引きについてでしたか。さっきも言いましたが私は見たんです。あなたの経験をね。なにしろ、なんでもお見通しなもんで」
走りまわってきたかのように女は息を上げている。顔にはびっしりと汗が浮きあがっていた。
「いいですか? 痔は病気です。薬は金を払って買うべきですね。万引きの方は犯罪なんですから、もうやめるべきでしょう。今までバレなかったからといって、これからもそうとは限りませんよ。それに、痔の薬を万引きして捕まることの方が何倍も恥ずかしい。違いますか?」
鼻息荒く睨みつけると、女は出ていこうとした。
「ああ、ここではちゃんと払っていって下さいよ。たいしたことは占ってないが、求められたことはしましたからね」
「わかってるわ! 払います! だけど、ほんと気に入らない!」
「でも、当たってる。そうでしょ?」
しばらくすると
「わかってる。言いたいことはわかるよ。でも、なにも言わないでくれ」
ただ、これはまだマシな方だったのかもしれない。違う日に
「まずはあなたのことを見させて下さい。ご相談はそれからで。――いえ、ここは料金をいただきませんのでご安心を。私の見たことが違っていたら、そのままお帰りいただいてけっこうです」
いつもの
「あの、正直言って、占いなんてどうでもいいんです」
いろんな意味で疲れ果てていたところに男はそう
「いや、お代は払いますよ。僕はタダでいい思いをしたいなんて思ってないですから」
「どういうことですか?」
「その、カンナさんっていうんですよね? あの子、どうですか?」
「どうっていうのは?」
顔を突き出すと男は
「いえ、ほんとかわいいですよね。胸もむちゃくちゃ大きいし。どういうプレイが好きなんです?
ありえないくらいの勢いで仕切りのカーテンが開け放たれた。男はなんらかの期待をこめた視線を向けたけど、カンナは無言でその腕を取り、外へ放り出した。
「あの、カンナ?」
「わかってる。でも、お願い。なにも言わないで」
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