第9章-2
コンビニで待っていた千春は言葉数も少なく、たまに
カンナはムカムカしてきた。まったく、ほんとあの馬鹿は。「今は最初に立ち返って調べ直してるとこなんだ」とか言ってたわよね? 「ちゃんと調べてる。これは俺たち二人の問題だ」って。そう、これは私たち二人の問題だったの! それなのに、あの馬鹿が探してたのは――
激しく頭を振り、カンナは
ただし、
「ほんとムカつく」
「ちっ! いったいなんなの?」
カンナは店の前でもう一度電話をかけた。そのまま顔をあげ、細長い窓を見つめてる。こうなるのはわかってたから早く出てきた。でも、開店準備はバタバタになるんだろう。とはいっても、午前の予約もキャンセルになったんだし。――はあ。溜息は嫌でも
「ん? どうしたんだよ」
「どうしたじゃないでしょ! 何時だと思ってんの? 早く鍵開けて!」
「鍵開けて? 自分のがあるだろ?」
「忘れたの! だから、早く開けてよ!」
窓がひらき、
「ほら、ぼうっとしてないの! 早く開けて!」
すべての準備が整うとカンナはPCを開けた。ただ、何度見ても午前の予約はキャンセルだし、その後の
ちょっと前まではこんなじゃなかった。
「ね、ちょっと訊いていい?」
「ん?」
合唱の声は床を
「ほんとにジジイを探してんの?」
「ああ、もちろんだよ。探してる」
彼は猫頭の像を戻した。これについては言っちゃいけないと意識してる。それがかえって
「そう。だけど、この時間もそうだし、なんだか特に理由もなくキャンセルってのが多いの。あのビラのせいと思いたくないけど、影響はあると思わない?」
「ああ、そうかもな」
なによ、その薄い反応は。唇を
「そんなの
「うん、許せないよな。だから、探してるんじゃないか」
「それって嘘でしょ」
「は? どういうことだ?」
「私、知ってるの。あなたは憎たらしいジジイを探してなんかいないって」
彼は
「知ってるって、なにを知ってんだ?」
「
「ああ、そうだったのか」
ん? ってことは、キティたちと話してたのを聞かれたってことか? 彼は
「そこで聴いたの。あなたが違うものを探してたって」
「違うもの? なんだよ、なに探してたっていうんだ?」
バスドラムとシンバルはドスンっ、バシャンっと鳴り
「しらばっくれないでよ! 聴いたんだから! そこで! あなたが叫んでるのを!」
カンナはガラス戸に指を向けた。スネアドラムは乱れてきた。と思ったら、
「だから、俺がなに叫んだっていうんだよ」
「あなたはこう言ってた! 『大きい
「大きいベン? なんだよそれ」
「なんだよって、大便のことでしょ! つまりはウンコ!」
合唱が消え去ると金管がけたたましく鳴り響いた。空砲も乱打気味だし、鐘もうるさい。彼は口を
「ほら、なにも言えなくなっちゃってるじゃない! まったくなにやってんの? なんでそんなもん探してるのよ!」
口を覆ったまま彼は首を振った。それ以上言わないでくれと示したのだけど、痛いとこを
「いい? 私たちのお店はいま大変なことになってるのよ! 早いとこそのジジイを見つけてなんとかしなきゃならないの! わかってるの?」
「ちょっと待てって。俺がほんとにウンコなんか探してたって思ってんのか?」
「だって、言ってたでしょ。『大きい便を見つけた』って」
首を引き、カンナは強く見つめた。彼の顔は固まってる。しかし、次の瞬間に大声で笑いだした。
「俺がウンコを? ウンコ探してたってのか? カンナ、そりゃ、いったい誰のウンコなんだ? それに、そんなの見つけてどうするってんだ? ――ああ、昨日はひどい雨だったもんな。かねて用意しといた専用の箱にしまっとくってわけか? でも、どうして?」
そこで、彼は目だけ向けてきた。手は
「
イングリッシュホルンの音は
「なにがそんなにおかしいのよ! だって、ほんとに聴いたのよ! あなたの声だった!」
「いや、カンナ、俺は『大きい方のベンが見てた』とか言ってたんじゃないか? 『大きい便が見つかった』じゃなく」
カンナは
「すごいな、カンナ、君は
「なんなのよ、そんなに笑って。おかしくなっちゃったの?」
「俺の頭がおかしくなったってか? いや、おかしいのはそっちの耳だ。とんだ聞き違いだよ」
彼は表情を整えようとしてる。しかし、その試みは幾度も失敗した。
「じゃ、いったいなにを見つけたっていうの?」
「俺が見つけたものか? そりゃ、
「え?」
カンナは顔を突き出してきた。それと同時に彼は顎を引いた。笑いすぎて流れた涙が
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