第9章-1
【 9 】
「じゃ、その
「ああ、そうなんだよ。こりゃ間違いない話だぜ。でも、それだけじゃないんだ」
「ん? それだけじゃないってのは?」
突然立ち上がり、キティは「ナア!」と
「アタシたちはそれを元にまた聴きまわってみたんだよ。そしたら、面白い――ってのもどうかと思うけど、まあ、
蓮實淳はなにげなくガラス戸を見た。その向こうではカンナが溜息をついてるのだけど、そんなのはわかりようもない。
「その爺さんはね、大和田の
「は?」
「ほら、アタシたちはその二人を見張ってたろ? そんときに何度か見てたんだ。もちろん気にもしてなかったよ。でも、大きい方のベンから聴いて、みんな思い出したんだ」
手を挙げたまま蓮實淳は固まった。――もしかしたら、その爺さんがもやもやしたガスみたいなものだったのか? 大和田の奥さんから見えたものだ。夫を苦しめる存在を彼女は感じていた。ん? 苦しめてる? どういうことだ?
「それにね、まだあるんだよ」
思考は中断された。しかし、口の
「それはわかる気がするな。
「よくわかったね」
「ああ。しかも、その爺さんは蛭子が持ってるアパートに住んでるってんだろ? ペロ吉んとこの
「なんでそこまでわかるんだい?」
「ん?」
蓮實淳はまた固まった。なんで俺はわかったんだ? そう思ったのだ。
「いや、
「ふうん、さすがはなんでもお見通しだね。だけど、まだ他にもいるんだよ、その爺さんと知りあいなのが。それもわかるかい?」
鼻に指をあて、彼は目を細めた。ただ、オチョを見ると頬(ほほ)がゆるんだ。
「ああ、泉川のオッサンか。これはオチョの様子でわかったよ。ずいぶんいろいろ
「いやぁ、それがなかなか難しくってさ。車ん中でイチャイチャしてんのは覗けたんだけど、」
そこまで言って、オチョは口をつぐんだ。
「ま、そういうわけなんだよ。それにね、近所に住んでるからかもしれないが、ペロ吉のとこの父親とも知りあいのようだよ」
「
「それはわからないね」
ふたたび鼻に指をあて、彼は黙りこんだ。ビラの内容を思い出し、今の情報との
「もしかしてだけど、その爺さんはもともと脅迫者なのかもな。大和田の旦那や泉川のオッサンを脅迫してるんだ」
「どうしてそう思ったんだい?」
キティの声はちょうどいいタイミングで入ってきた。思考をスムースにする問いかけだ。
「思い出したことがあるんだよ。大和田の旦那はこう言ってた。『お前も脅迫しようってのか?』あんときは
「それで?」
「それで、――うん、こうも考えられるんじゃないかな。あのビラは俺たちに向けられたものでありつつ、大和田の旦那や泉川のオッサンに向けたものだったんじゃないかって。つまり、俺たちの店を
「なるほど。ま、そう考えることはできるね」
「いや、ちょっと
「かもしれないけど、その爺さんになにかあるのは確かだろうよ。じゃなきゃ、あんな
「まあ、もうちょっと調べてもらうしかないな。一応、その爺さんが脅迫してるかもって考えて調べるんだ。でも、その場合は
「じゃあ、店をたたむかい?」
「それも無理だ。――ま、先のことは後で考えよう。考えながら調べ、
「まあ、そうだね」
思いっきり伸びをするとキティは
「ところで、その爺さんの名前を言ってなかったね」
「ん? ああ、そうだったな」
「ただね、アタシは思うんだけど、これはあの小娘に言わない方がいいよ。なにしでかすとも限らないから」
「そうするよ。しばらく黙っとく」
キティはじっと見つめてる。しかし、急に目をそらした。
「じゃ、言うよ。その爺さんは
「カメラか」
そう言うと、彼はソファにもたれかかった。そのときにも雷が鳴った。
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