第8章-4
それから幾日か後(七月
「なんだか
「え?」
「いや、前はずっとこうだった。外を
「なにそんなの懐かしがってるのよ。――ね、ところでどうなってるの? なんかわかったことはないの?」
欠伸を
「今は最初に立ち返って調べ直してるとこなんだよ。
「でも、見てるぶんにはなにも
「もちろんだよ。ちゃんと調べてる。これは俺たち二人の問題だ。絶対なんとかしてやる」
腕を組み、カンナは脚を伸ばした。まあ、前に比べると、この人も自信ありそうにしてるし、ほんとに待つしかないんだろう。そう考えると気が抜けてきた。――もう、さっきからずっと欠伸してる。涙まで出ちゃってるわ。
ガラス戸は
しかし、入ってきたのは千春だった。白いスカートに赤いヒール
「なによ、二人してそんな顔して。私が来たの
「いや、そうじゃない。でも、タイミングがね」
「タイミング? タイミングってなによ」
「お客さんかと思ったんだよ。予約がキャンセルになったから
「ああ、変なビラがあらわれたって言ってたものね。その影響ってこと?」
二人は顔を見合わせた。カンナは唇を
「ま、そんなふうにしてないで、これ食べましょうよ。《
「えっ! ほんと?
カンナは素早く立ち上がった。そのときには満面の笑みに差し替えてる。千春は首を振った。蓮實淳も同じようにしながら欠伸を洩らした。
向かい合って座ると彼はだらしなく脚を伸ばした。風が強くなったようだ。ガラス戸は
「ほんと変な天気ね。日中あんなに晴れてたっていうのに」
「ああ。それでキャンセルになったんならいいんだけどな」
「で、そのビラってどんなの? ずっと気になってたんだけど、ここんところ
「それも見たいっていうのか?」
「もちろん。
彼は奥を見た。カンナはババロアを盛りつけてるところだ。
「なあ、あのビラを見たいって言ってるんだけど、見せてもいいか?」
そう言った瞬間に光が
「って、どうしたんだよ」
「え? ――ううん、なんでもない。で、なんだっけ?」
「あのビラを見たいんだってさ。見せてもいいか?」
「ああ、」
カンナはスプーンとプラスチック容器を持ったまま考えた。私がこの人と、その、なにかしてるっての読んだらどう思うんだろう? 怒り出したりするかな? でも、いいか。どういう反応するか見せてもらいましょ。
「別にいいんじゃない? 私はかまわないわよ」
奥へ戻り、カンナは盛りつけをつづけた。耳だけは
「――ふうん。で、これって、あなたが解決したことなわけ? それを
彼は腕を組み、口をかたく閉じている。千春は『レイプ
「まさか、こういうことしたんじゃないでしょうね」
「あのな、カンナと同じこと言うなよ。俺がそんなことすると思うか?」
「しないとも限らないんじゃない?」
「はっ! そういうの失礼だぞ。いいか? それも泉川ってオッサンのしたことなんだよ。それをまた俺のことみたいに書いてるだけだ」
「ふうん、そうなの。――ま、いいけど。で、ここからは、」
カンナは
「えっ、やだ」
素早くあげた顔には複雑な表情が浮かんでいた。半分ほどは
「もちろんこれも嘘なんでしょ?」
「これっていうのは? 私が
とり
「まさか。そんなふうに思うわけないでしょ。その、あなたたちが二階でってとこよ」
「私たちが二階で、」
そこまで言ったとき、まるで光の
「カンナちゃん、まだ雷が怖いの?」
「え? そんなことないわよ。ちょっと
「まあ、そうだけど。それも嘘ってことよね?」
「もし嘘じゃなかったら、どうするの?」
「はあ? どうするって、別にどうもしないけど、――その、なに? びっくりはするし、」
「びっくりするだけ?」
千春も
「なにが言いたいの?」
「別に。でも、千春ちゃんはこの人と別れたんだから、誰と乳繰り合ってたって関係無いわけでしょ」
「そうだけど、」
そう言ったきり、千春はしばらく
「だけど、私はいわばカンナちゃんの
カンナは唇を
スプーンを止め、カンナは首を曲げた。彼の顔は目の前にある。え? なんでこんな近くにいるの? ああ、さっき大きなのが鳴ったとき、くっついちゃったんだ。
「千春ちゃん、」
「なに?」
「この話はもうやめましょ。だって、私たちは、」
そのとき最も激しい光がすべてを照らした。そして、明かりがふっと消えた。「きゃっ!」と言ったのは千春だった。耳を
「今のすごかったわね。びっくりしたわ」
乱れた髪を直しながら千春は外を
「どこかに落ちたんでしょうね。それも、けっこう近くに」
そう言ったものの誰もこたえない。
「ちょっと! なんで
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