第8章-2
追い出された彼はしばらくあてもなく歩いた。――まったく、探してこいって言われてもどうすりゃいいんだ? それに、もし万が一にも見つかったら連れて帰るのか? 「おい、見つけたぞ。このジジイだった」とか言って? はっ! 馬鹿げてる。その上、ギッタギタのボッロボロにするってんだろ。そしたら俺も
「蓮實先生!」
「ん?」
アパートの前にはランドセルを背負った子供が座っていた。その横にはペロ吉がいる。時計を見ると、二時十六分。
「どうしたんだ?」
「いや、大丈夫だ。
とは言ったものの職業まで名乗る気にはなれなかった。占い師って怪しげだもんな――そう思ったのだ。子供は明らかに
「ええと、なんだ、その猫はペロ吉っていうんだろ? 俺はその子の知りあいっていうか、まあ、そういう感じの者なんだよ。な、ペロ吉?」
「ニャア」
ゆっくり近づき、彼はハチワレの
「もしかして、家に入れないのか? でも、学校は? まだ授業中のはずだろ?」
「あの、僕、お腹痛くなっちゃって。それで
「はあ、そうか、そりゃ困ったな。だけど、鍵はいつも持ち歩いてるんじゃないのか?」
「ううん、なくしちゃうといけないからって秘密の場所に
「ああ、そういうことか」
彼は鼻に指をあてた。ただ、すぐ思いついた。――そうだった。このアパートは
「
「え、うん。そうだけど、なんで知ってるの?」
「さっき言ったろ? 俺はこの猫の知りあいだって。だから、君のことも知ってるんだ」
「ちょっとだけ待っててくれ。お腹は大丈夫か?」
「うん、今は平気」
「じゃ、そのままここにいるんだ。俺が鍵を借りてきてやるよ」
背の高い
「あら、蓮實先生。お久しぶりでしたね」
ゆかりが顔を出した。顎の長さは相変わらずだけど、表情は明るくなったようだ。
「どうかされました?」
「いえ、ちょっとお願いがありまして、」
話しつつ彼は首を
「まあ、大変。でも、鍵があるはずです。――お
「ゆかりさん、とりあえず悠太くんを連れてきて。――ああ、それに
「だったら私が連れてきますよ。ゆかりさんは正露丸を探しといて下さい」
子供は同じ場所に座っていた。さっきよりは落ち着いた様子をしてる。彼は小さな手を引いて歩いた。だいぶ前にもこういうことをしたもんだ――そんなふうに考えながらだ。
「蛭子のお
「うん。でも、ペロ吉も一緒で大丈夫かな?」
「ああ、どうだろう。ま、俺が頼んでやるよ」
門の前にはゆかりが立っている。もう少しで着くというときに子供は立ちどまった。
「ね、おじさんも猫としゃべれるんでしょ?」
「は?」
「僕ね、待ってるあいだにペロ吉から聴いたの。おじさんとは友達なんだって言ってた」
「ああ、そうか」
蓮實淳はしゃがみ込み、肩を両側からつかんだ。そのとき、ん? と思った。Tシャツからはみ出るように青黒い
「あらあら、悠太ちゃん、大丈夫だった?」
嘉江の声が聞こえた。歩き出した子供を見つめ、彼は額に指を
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