第8章-1
【 8 】
蓮實淳は一人でじっくり考えた。
デスクには
そもそも
瞳だけが動き、それはビラの一部分に向けられた。
『
ふむ。こうも考えられる。この作者は大和田義雄の知りあいなのだ。だから、払った金額まで知っていた。それに、この書き方からすると直接本人から聴いたようにも思える。不倫相手が俺の知った人間というのは一応事実なんだからな。
鼻先を
もし、大和田義雄が「自分は悪くない。唆されたんだ」と言い立てたら、こう書いてあるのもうなずける。それか、本人がつくったとも考えられるな。
唇は
「コンコン」と声が聞こえた。ノックのつもりなのだろう、布も
「どう? なんかわかった?」
指を
「ねえ、見えたりしたことはあったの?」
「何度も言ってるけど、俺は物からなにか見ることなんて出来ない」
「じゃ、なにしてんのよ」
「考えてるんだよ。なんとかしろって言ったのはそっちだろ」
「で、なんとかなりそうなの?」
「いや、今のところ
揺れは収まった。ただ、直後に引き
「だったら、考えてないで探しに行きなさいよ! いやらしいジジイを探し出すの!」
「どこを? それに、どうやって探すっていうんだ?」
「そんなの知らないわよ! 馬鹿じゃないけど
カンナは
「このクソ暑い中をか? そんなことしたら
「なりなさいよ。熱中症になるくらい探すの!」
彼は目を細めてる。その視線をたどり、カンナは胸を
「なによ。またそんな目で見て」
「いや、違うって。そのTシャツ着てるんだなって思ってさ。ま、俺は好きだけどな。いかにも君らしくて好きだ」
カンナは視線をおろした。『Bitch!!』という文字が大きく映りこんでくる。
「そうよ! 私もこれ好きなの! だから着てるの! 『Bitch』の意味だって知ってるし、その上であえて着てるの!」
胸をバンバンと叩き、カンナは
「いい? これ着なくなったら、あの下らない、馬鹿げた、いやらしいビラに負けたことになるでしょ! そんなの嫌なの! 私は負けないんだから!」
そう、私は負けない。こんな悪意になんて負けるわけもない。いやらしいジジイを見つけ出し、泣くほど後悔させてやるんだ。
「ほら、行って! 夕方まで時間ができたんだから、とにかく探すの!」
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