第7章ー6
コーヒーとキティ用の水が置かれると、
「で、あなたはどう考えてるの?」
「うーん、まあ、ごく普通に考えれば、これは
カンナは首を
「どうした?」
「ううん、どうしてそう思ったのかわからなくて。ね、この紙だけでそこまでわかるの?」
彼は口許をゆるめた。ふんぞり返りたい気分になったものの、その程度で済ませたわけだ。
「当たってるかわからないけど、たとえば年寄りだってのは使ってる言葉でわかる。ほら、脅迫状にも『月夜の晩ばかりじゃない』って書いてあったろ? あれもそうだし、この紙にも『
「ふうん。じゃ、お金への執着ってのは? それに、結婚したことがないっては?」
「前にも言ったけど、そいつの目的は俺たちの店を潰すことだと思うんだ。だけど、その割りには金の話題が多すぎる。『なんと三十五万!』だの『高額な金を
そこまで言うと彼は
「ってのは?」
「いや、これはちょっと言いづらいんだけど、君のことをああだこうだ書いてたろ? あれはちょっと、――というか、かなり気持ち悪い内容だった。ああいうのを書くのはずっと独り者だったからだと思ったんだよ。それと同時に、男だというのも確からしく思える。ま、女にだって書けるだろうけど、あの文章はそういう男の
「なるほどね」
「それに、几帳面なのは脅迫状のつくりにもあらわれていた。今回の馬鹿げたビラも
「ふうん。だけど、なんでビラなんだろ。もっと他にやり方あるじゃない。ネットに悪口書き込みまくるとか。――あ、それも年寄りだから?」
「そうかもしれないけど、それだけじゃないんだろうな。それに、ネットに書いたところで俺たちは有名人でもないんだから、さほどの意味はないだろ? で、ビラにしたんだ。しかし、」
彼は突然
「しかし、なに?」
「――ん? ああ、ビラにしなければならない理由は見当たらないな。考えてもみろよ、
「うん」
「誰かに見られるリスクを
「その理由は?」
「わからない」
「わからないの?」
「わからないよ。わかりっこない」
「じゃあ、その
「そうかもしれないけど、この辺の占い師に爺さんはいない。男も一人だけだし、まだ四十代なんだ。俺の考えには
カンナは腕を組み、荒く息を吐き散らした。
「一応は調べてたってことね。同業者については」
「まあな。でも、これが出てきて、さらにわけがわからなくなった。脅迫状やビラが指し示してる人物像とこの辺の占い師には
「この辺にいない占い師だったら? ちょっと遠いとこに住んでる場合だってあるんじゃないの?」
「まあ、そうだけど、そうなるとここまで
吐き出される息はさらに荒くなった。目も次第につり上がっていく。
「じゃ、その気持ち悪いジジイは占い師じゃないってことなんでしょ! だったら、いったいどこのジジイなのよ!」
「だから、まだわからないんだって」
「そんなの占いでちょこちょこっと見ちゃえばいいでしょうよ! なんでもお見通しの蓮實先生なんだから!」
「そう簡単に言うなよ。だいいち俺は物からなにか見たりできない。これだけじゃわかりっこないんだ」
「けっきょくなにもわかってないのと一緒じゃない! さっきはあんな
別にそこまで偉そうにしてたつもりもないけど――そう思いながら、彼は首を引いた。カンナは身を乗り出してる。
「で、どうするの?」
「そうだなぁ、警察に相談するしかないかもな」
「オマワリに頼むっていうの?」
彼は怒りに歪んだ顔を見つめた。は? オマワリ? 今そう言ったよな? こいつ、警察となんかトラブったりしたのか? いや、そんなの見てないけどな。
「オマワリなんかに頼んだところでなにもならないわよ! どうせ、『はい、はい』って言われて終わりになっちゃうわ!」
「じゃ、どうすりゃいいってんだ?」
「自分でなんとかしなさいよ! どんな手を使ってでも、そのジジイを見つけ出すの!」
顔を
「それで、もし見つかったらどうするつもりなんだ?」
「決まってるじゃない! ギッタギタのボッロボロにしてやるわ! もう二度とこんなの書けない身体にしてやるのよ!」
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