第3章-4
話し終えると気分は落ち着いてきた。これはただ単に誰かと話しただけでは得られなかったもの――相手によるものだった。茶トラは
しかし、茶トラの方は彼を息子や弟のように思ってなかった。《かわいい人》と思っていたのだ。どうにもこうにも駄目な男というのは、ある種の女性にはかわいく思えるらしい。普段の人間嫌いを
「気は済んだのかい?」
「ああ、だいぶ楽になった。ありがとう。それに、猫としゃべったのにも、こう、なんていうか、違和感はなくなった」
「そうかい。そいつは良かったね。おかしくなりそうにもないかい?」
「うん、たぶん大丈夫だ。もう帰るよ。ほんとにありがとう」
猫は顔をあげ「ニャア」と鳴いた。彼は薄く笑ってる。
「また会ってくれるかな?」
「気が向いたらね」
ゆっくり近づく影を見て、茶トラはどうすればいいか迷った。でも、感情に
「君、なんて名前だ?」
「まずは自分から名乗りなよ」
「ああ、そうだったな。俺は蓮實淳っていうんだ。君は?」
すっと身を引くと、猫は
「アタシの名前かい? 幾つもあるんだよ。あんたと変わらずいろいろあった方だからね。でも、――そうだね、最近じゃキティって呼ばれることが多いね」
「わかった、キティ。また会おう」
そう言ってる間に猫は身を
それから三日間、彼は高熱を出して寝込んだ。薄寒い公園で恐怖による汗をかいた上に一時間以上も話しこんでいたのだ、そうなって当然だろう。
熱がおさまった後でしばし考えた。――ん? 猫としゃべってたように思えるけど、あれってほんとうのことか? とだ。まあ、それだって当然だろう。三十過ぎの男がそんなのを素直に信じすぎるのも問題だ。しかし、サイドチェストにはペンダントが置いてある。それを手に取ると、じんわりした温かみが感じられた。
彼はマンションを出た。熱が出てからというのもマトモなものを食べてなかったから、《大倉》あたりで
「――でさ、
「ああ、あの四十過ぎて独身のデブか?」
「いや、それがさ、こないだ結婚したんだよ。それも、けっこう美人の奥さんでさ」
「えっ、マジか。そんじゃ今度見にいってくっかな。――ああ、でも、
彼は比較的落ち着いて会話を聞いていた。ふむ、やっぱり俺は猫としゃべってたんだな――などと考えながらだ。
「うん、アイツはとことん質が悪い。誰か注意してくれりゃいいんだよ。俺たちに暴力振るうなんてのは下の下だ。そのうち、もっと
「ま、親もあんな感じだしな。あそこの父親はなにやってんだ? 腕にでっかい
「だよな? だけど、そうなると学校の方に言うしかないってことか。ほんと誰か言ってくんないかな。危なくって佐伯んとこの奥さん見にも行けないし」
うん、ここはひとつ俺が動いてやるか。フェンスから
「――ええと、なんだ。その山室って家はどこにあるんだ? 俺が話しといてやるよ。いや、まあ、学校にだけどな」
突然話しかけられた猫たちの反応は気の毒になるくらいだった。
「うわあ! 変なのが来たぁ! 人間っぽい猫か、猫っぽい人間だぁ!」
おいおい、と思いはしたものの、考えてみれば仕方ないことなのかもしれない。俺だって突然象とかに話しかけられたら逃げるよな。それから、自分を
それ以降も彼はあたり
そんなこと考えてる
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