第3章-2
「コンナニ
「でも、欲しいものがないんだ。悪いけど、ないんだ」
そうこたえてから、ん? と思った。しゃべり方がすこしうつったな。
「ホラ、言ウデショウ? エエト、
「モウ、旦那ニハカナワナイヨ! ワタシ、トッテオキヲ出スヨ。ビックリスルコト、ウケアウヨ!」
そこには似たような造りのペンダントヘッドが三つ
「旦那、コレヲ見ラレルナンテ、トテモ運ガイイヨ! ラッキーボーイネェ、ヒューッ!」
「ああ、これは、」
そう言いつつ彼も
「うん。いい物っぽいな」
「ソウヨ! コレラハ、トテモ良イ物! ワタシノトッテオキネ! コレヲ出スコトニナルトハ思ッテナカッタヨ! コレ、女ノ子ニアゲル。女ノ子、
蓮實淳は蛇の描かれてるものを手に取った。見た目のわりには軽い。ただ、じっと見つめていると胸がざわざわするような気がした。
「この模様に意味はあるのか?
「コレ? コノ動物ノコト? アア、コレハネェ、」
男は言い
「ソウ、コレハネ、蛇ト話セルヨウニナル物ネ」
「蛇と話せる?」
「ソウヨ。ソシテ、コッチハ猫ト話セルノ。言ウマデモナイケド、コッチハ犬トネ」
「は? 猫? 犬? 話せる?」
「ウン、コレハネ、
男は中心にある金属片を指した。
「ソロモン王ノ指輪、ソノ
「でも、蛇と話してなにになるっていうんだ? 猫や犬だって同じだ」
男の興奮は一瞬にして冷めたようだった。おおげさに肩をすくめ、頭を振っている。
「ソレヨ、問題ハソレナノヨ。ワタシモ同意見ネ」
「あんたはこれでしゃべったことあるのか? その、犬や猫と。まあ、蛇とでもいいけど」
ああ馬鹿馬鹿しいと思いながら、蓮實淳は犬のも猫のも手に取ってみた。なんとはなしに持ったときの印象が違う。蛇のはざわざわした。犬のはひんやりした(彼は幼少期にロバほどの大きい犬に
「ソンナ
「ワタシ、
泣き落とし作戦に切り替えやがったな――そう思ったものの、男の落胆振りは哀れを
「わかった。なにか買ってやるよ。これいくらするんだ?」
最後に手にした猫のペンダントヘッドをぶら下げながら、蓮實淳は溜息を
「百万円ネ」
「は? 百万? おい、
「商売ニ冗談ハナイヨ。コレハ百万円ノ値打チガアル物ネ」
「だって、猫とか犬としゃべったって意味がないって言ってたろ?」
「ソデレモ百万円ネ」
「じゃ、やっぱり要らない」
彼は両手を大きく広げてみせた。なんだか
「オーケー! デハ、八十万デイイヨ。ソレデ手ヲ打トウ」
「そんな金ないよ。要らない。高すぎるよ」
「ヒューッ! 旦那ハ相当ノヤリ手ネ。ショウガナイ、五十万ヨ」
「それも無理だって。そんな高いの要らないの」
「オウ! 旦那ァ、一度買ウッテ言ッタデショ。武士ニ二言ハ無イ。コレモ日本ノ良イ言葉ヨ」
っていうか、俺は武士じゃないし。彼は
謎の男は肩に手を乗せたまま固まっている。
「旦那、幾ラナラ払エルノヨ?」
「まあ、五千円ってとこだな」
彼も囁くようにこたえた。そう言えば
しかし、意外なことに顔は笑ったものへ変わっていった。
「オーケー! デハ、五千円ネ!」
マジかよ。そう思った瞬間、
「毎度! イヤァ、旦那ニハカナワナイヨ! スゴクイイ買イ物シタネ! トコロデ、ソレヲ
ニヤついた顔を見ながら、彼は弱く首を振った。
「一応だけ訊くけど、それ、いくらだ?」
「ソウネ! 二十万デイイヨ!」
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