第2章-3
蓮實淳は目をつむった。この話を受けた場合どうすればいいか悩みながらだ。と同時に、この直近の展開も考えた――それはすぐにわかった。立ち聞きしていたカンナがあらわれる。きっと、お茶を持ってくるだろう。そして、なにくわぬ顔で「私からもお願いします。この方の力になってあげて下さい」などと言ってくるはずだ。人の苦労も知らないで。
実際にもカンナはハーブティを持ってきた。引きつった顔を見ても、そんなのはお構いなしだった。
「どうぞお飲みになって下さい。これは不安解消のお茶、パッションフラワー、カモミール、レモンバームですよ」
相談者はしばし視線を
「ありがとうございます」
「いえいえ。きっと、今のお客様にぴったりのお茶だと思いますよ」
お
「あら、美味しい」
「でしょう? 必要なものって美味しく感じるものですよね」
あくまでも居座ろうとするカンナを無視し(とはいっても、そうできなくなるのはわかっていたけれど)、蓮實淳は前を向いた。
「実際問題として、あなたの力になれない可能性が高いです。確かに指輪を見つけたり、迷子のペットを捜したことはあります。しかし、誰ともわからない人間を特定するのは無理かもしれない。正直いって、そういうのはやったことないんですよ」
「でも、」
カップを置くと女性は顔を
「出来ないとも限らないんじゃないですか? 先生、私、他に頼りにできる方がございませんの。先程
カンナは口出ししたくてしょうがないといった顔つきをしてる。そして、言葉が
「私からもお願いします。この方の力になって下さい、先生」
お盆を抱く腕に力をこめ、カンナは
「この方にとってご主人がどんなに大切な存在か、よくわかるでしょう? だって、なんでもお見通しの蓮實先生なんですもの。それに、ここまで乗りかかったんだから、最後まで全部見て差し上げましょうよ。この方を苦しめる浮気相手を見つけてあげるの」
言い切ってから、ん? と思ったのだろう、カンナは唇をすぼめ、「いえ、聞くつもりはなかったんですけど、その、ところどころ聞こえてきたので」とつけ足した。蓮實淳は
「やってみる先から出来ないかもって考えるのはよくないわ。不可能に挑戦するのも時には必要でしょ。それに、相談に来られた方の問題を解決する。それこそ占い師
占い師冥利ってなんだよ――そう思いもしたけど、これ以上
「ご主人のお勤め先は? このお近くですか?」
「はい? ――ええ、そうですけど。明治通り沿い、ほら、専門学校がありますでしょう。その近くにございますが」
「なるほど。まあ、であれば結果はともかくトライすることはできるか」
彼はどうすればいいかをもう一度組み立て直した。これまで幾度かしてきた方法が今回も有効なのか、とだ。
「あと、ご主人の写真はお持ちですか?」
「ええ」
女性はバッグから写真を取りだした。眼鏡をかけた七三分けの、とくに
「いいでしょう。やってみます。まずはあなたの疑念が正しいかの
「ああ、」
そう言って、女性は
「ありがとうございます」
蓮實淳は腕を組んで背中をみせた。しかし、もうひとつ訊いておかなければならないことを思い出した。
「すみません。お名前をお訊きしてなかったですよね」
女性は
「大和田紀子と申します。夫は義雄です」
蓮實淳は料金表に「オオワダノリコ/ヨシオ」と書き、細かくうなずいた。
「名前も知らぬまますべて見通せるなんて、ほんとうにすごいお方ですね。期待していますわ」
深々と頭を下げ、女性はカーテンの
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