第2章-1
【 2 】
その女性は雪のちらつく外気に合わせたような顔色をしていた。黒いロングコートを脱ぎ、それを渡すと、ピンク色のカーディガンに白いブラウス、
「どうぞどうぞ。
女性は頭を下げた。蓮實淳は薄く
「私になんでもご相談下さい。どんなことでもお見通しの、この蓮實淳にお
「はあ」
カーテンで仕切られると相談者が目にできるのはタペストリーとバステト神像、幾つかの小物だけになる。黒い布を背景にした蓮實淳はグレーのスーツ姿で、ネクタイも
「まずはあなたのことを見させて下さい。ご相談はそれからで。――いえ、ここは料金をいただきませんのでご安心を。私の見たことが違っていたら、そのままお帰りいただいてけっこうです」
彼は胸を押さえた。そうするだけでだいたいすべてがわかるのだ。言いつけ通りに手をかざし、なにかごにょごにょと
「見えました。バステトのお導きにより、あなたのことが。あなたはご主人のことで悩まれてますね」
彼は目を細めた。相談者の唇は
「あなた方ご夫婦は結婚されて十五年ほどで、お子さんが二人いる。これまでご主人は
相談者は腰を浮かしかけ、目を泳がせた。彼の占いは今回も当たったのだ。
ここで、蓮實淳の占いについて実際にはどのようなことが起きているか書いておこう。
まず、胸に手をおき、ペンダントヘッドを押しつける。それから、相手をじっと見る。すると、スイッチがオンになり、目の前にいる人物のことがより良く見えるようになる。その見えるというのは表面上のことでもある。瞳だけが大きくなり、その
類推について補足しておく――
カンナを占ったとき彼は「君は父親が嫌いではなさそうだ」と言った。それに、「むしろ母親との折りあいの方が悪かったんだろう」とも言い当てた。これはカンナの過去を見たときにあらわれた、①両親の離婚、②母親に引き取られる、③成長して後に母親とは
類推するのは、しかし、すべて見終わってからだ。過去が
一度、真の闇があらわれ、見えたことが真空に吸い込まれるようになくなりはするものの、じきに新たなものが生まれる。それはだいたいにおいて相談者の現在
さて、この女性の場合はこうだった。
まずは現状が見えた。家族――夫、娘、息子。それから、仕事仲間。彼女は指導的立場にいる。経営者か、それに
映像は人生を逆回転するように
この相談者の場合、闇を打ち消すようにあらわれたのは夫の姿だった。つまり、彼女は夫のことで悩んでるわけだ。それはなぜか? 目を
ん? と蓮實淳は思った。女の他にもうひとつなにかが漂ってる。それは人影とも思えない。いや、人としてもいいけど
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます