第1章-2
「ねえ、もうちょっとは占い師らしい
「占い師らしい服装?」
そう
「千春ちゃん、どう思う?」
「まあ、そうね」
千春――というのは蓮實淳の元恋人でカンナの
「まあ、そうねってレベルじゃないでしょ。こんな人にああだこうだ言われたい? 私は嫌。たとえ当たってたって嫌よ」
「じゃ、どうすりゃいいんだ?」
「そんなの知らないわよ。でも、そんな格好の占い師なんている?」
千春はこのやりとりを関係ないことのように聴いていた。しかし、カンナを連れてきたのは彼女なのだ。千春には
そして、疑念は実際に
なにか言われるごとにカンナの顔は赤くなり、やがて青ざめ、ふたたび赤くなっていった。それからずっと腹を立てている。当たってるぶん怒りの持って行き場がないのだろう、服装に
「
カンナは突然
ちなみに、このとき占った内容はこうだった――
「短気。おっちょこちょい。意志は強いが移り気。その性格のせいか、
「仮に当たってたとしても言い方ってものがあるわ!」
カンナはそう
「性格を直さない限りは? これからも男に振られつづける?
「でも、当たってる。そうだろ?」
カンナは立ちあがり、
「当たってるわ。ムカつくことこの上ないけど当たってる」
「ほんと? 雅彦叔父さんが不倫してるってのも?」
「そうよ! それも私の高校の後輩と! あの
「あらあら」
彼は
「なんでわかったの?」
「そうよ。そこまで知ってるなんて変だわ。突然占い師になるなんて言うから頭がおかしくなったのかと思ったけど、それに、私のこと知りすぎてるからストーカーみたいになっちゃたのかって思ったけど、」
「あのな、頭がおかしいだの、ストーカーだのって、そういうの失礼だぞ」
「だって、誰だってそう思うわ。ちょっと前まで飲み屋の店長さんだった人が突然占い師になるなんて言いだすんだもの。ま、それまでだっていろんな仕事してた人だから転職するのは病気みたいなもんだって思ってたわよ。でも、よりによって占い師だなんて」
「私ね、
「とうとうって、おい」
「引っ越してきたばかりのこの子のことがわかるようだったら本物かもって思ったけど、」
「本物だってことになった。そうだろ?」
彼はふたたびニヤつきだした。この男は人を
「まあ、そうね。そういうことになるわ」
座り直してからのカンナは少しだけ落ち着きを取り戻しつつあった。ただ、自分が連れて来られた理由を聴くと、ん? と思った。
「ちょっと、千春ちゃん。私って、この男の疑いを晴らすためにあんな
「そうよ」
こともなげに千春はこたえた。
「ま、結果的にはそういうことね」
「だけど、まだ信じられないわ」
周囲の思惑なんて気にもしない千春は
「どうやったら、そんなに当てられるの? 占いっていったって
「ま、そうなっちゃったんだよ。俺にはわかっちゃうの。水晶玉もタロットカードも
たぶん
「当たってるの?」
「当たってるわよ。ほんとムカつくけど」
「じゃ、今日からお風呂は私が先ね。ああ、それと
「ええ! だって千春ちゃん帰ってくるの遅いじゃない」
「それでもよ。
もういっぺん蹴っ飛ばしてやろうと目を向けたとき、彼はガラス戸を開けた。しかし、誰もあらわれない。視線を下げると、茶トラの猫が入りこんでいた。すごく大きな猫で、目が
「どうした、キティ。なにかあったのか?」
抱き寄せられた猫は「ニャ」とだけ鳴いた。その声には甘ったるしいものが
「ああ、そうか。悪い。約束してたもんな」
約束? 猫と? まったく馬鹿げてる。そう思いながらカンナは首を振った。千春は目を細めてる。どこかで見たように思える。でも、どこで見たのか思い出せないのだ。
「帰るの?」
「そうしましょ。なんだかお
「お邪魔? この人って猫とそういう関係なの?」
「え?」
千春はなにを言われたのかも、自分がなにを言ったのかもわからないといった表情を浮かべてる。それから、蓮實淳に向き直った。
「変に疑ってごめんなさい。でも、そう思っちゃうくらいあなたの占いが当たるってことでもあるわ。ま、とにかく頑張って」
「ああ」
顔を寄せ、千春はもう一度しっかり猫を見つめた。カンナは丸めてあったスカジャン(背中に『F・U・C・K』という文字とそれを示す
「でも、盗聴器は探した方がいいんじゃない? あの人、いかにもそういうことしてそうだもん」
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