第22話
映画はあっという間にエンドロールを迎え、何人かが静かに出口の方に向かう姿が見える。僕は左隣に視線を移し、二時間ぶりに瀬戸を見た。彼女は、じっとエンドロールを見ていた。最後まで、この物語に集中しているのだろう。
僕は、さっきまで考えていたことを何度も何度も頭の中で繰り返していた。その度に「本当に最後でいいのか」と自分自身に問いたが、答えは「最後にした方がいい」となるだけだった。
今、瀬戸はどう思っているのだろう。僕が「これで終わりにしよう」と言ったら、彼女はどんな表情を見せるのか。
「…終わったね。」
エンドロールも終わり、館内が一気に明るくなったタイミングで、瀬戸はようやく口を開いた。彼女の目元は、少しだけ濡れていた。
「とりあえず、出口、行こうか。」
僕は彼女とほぼ同時立ち上がり、荷物を持って瀬口に向かった。その間、僕達は映画の感想を話す訳でもなく、のどが渇いたと呟くこともなく、ただ黙っていた。
僕は、どう切り出せばいいか分からなかった。「映画どうだった?」とかなんとか言えばいいのだろうか。
色々と逡巡しつつ、僕達は映画館を出て、自然と駅へ向かっていた。
「松原くん、今日はありがとう。」
少し前を歩く瀬戸が後ろを振り返った。「映画、一緒に観に来れて良かった~。忙しい中ありがとう。」
僕は、普段と変わらない瀬戸の様子にホッとした。「別に忙しくないよ。」
「そう?…ほら、最近松原くん友達増えたから、他の人達と遊ぶ約束でも入っていたんじゃないかなって。」
僕は、一瞬出て来た西島の顔を消した。「いや、特に予定は入ってなかったから。」
「そう。ならよかった。」
瀬戸は改札に近づいてSuicaを取り出した。このままでは、電車で帰るだけになってしまう。言うなら、今しかないだろう。
「「あのさ!」」
瀬戸も、なぜか同じタイミングで声を発した。僕達は向かい合ってしばらく黙り、次の瞬間に笑い出した。
「フフッ、タイミングが重なっちゃったね。」
「瀬戸が先でいいよ。」
「いやいや、松原くん、どうぞ。」
瀬戸はそう言った瞬間、顔を曇らせた。「多分、お互い言いたいことは同じだと思うんだ。」
「え?」
「…二人きりでは、もう会わない方がいいよね?」
僕は目を丸くした。それは、僕が言いたいことと同じだった。
「とりあえずさ、適当に座れる所に行こうよ。」
瀬戸は、ぐるりと辺りを見た。が、駅近くには居酒屋しかなかった。
僕は改札を指差した。「とりあえず最寄り駅まで帰って、いつものカフェにしないか?」
「うん、そうしよう。」
僕達は改札を抜け、帰りの電車に乗った。
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