第11話
午後の授業も終わり、西島は駅へ、僕はいつものカフェへ向かった。このままアパートへ帰るのもよかったのだが、さっきまで人と一緒にいてから急にアパートへ帰るのは、若干寂しかったし、今日は何も予定がないので急いで帰る必要はなかった。僕は雑多な人々が行き交う中、一人カフェへ向かった。
東京へ戻った日から何回か通っていたせいで、僕はカフェの店員から顔を覚えてもらえた。店に入ると「あ、いらっしゃいませ!」と柔らかな笑みを店員から送られ、席に案内されるようになった。最初はどこかVIPな気持ちになっていたが、今はそれが少し歯がゆい。あまり注目されるのは嫌いだ。
僕はカウンター席に着くなりコーヒーを注文し、届く間スマホをいじっていた。
「あ、松原くん。」
僕は隣の席を見て驚いた。そこにはさっきまで一緒に授業を受けていた瀬戸がいた。一緒に、と言っても、近くの席で話していたわけではない。彼女もまた僕と一部の授業が被っていて、同じ空間にいただけだ。
「久しぶり、瀬戸さん。」
僕がそう言うと、瀬戸は「電話で聞いた声と同じ声だ。」と当たり前のようなことを言った。そして、そのまま店員に「期間限定の黒糖カフェモカを一つ。」と注文した。やっぱり、メニュー表は見ていなかった。
僕は夏休みの電話を思い出した。
「あぁ、確かに電話したね。」
「あの時はありがとう…助かった!」
僕は瀬戸の前で手を振った。「いいよ、そんな手間がかかるようなものじゃなかったし。」
「そかそか。よかった。」
瀬戸はホッとして、胸をなでおろしていた。
僕達は飲み物を飲みながら、その後大学について少し話していた。履修した授業のこと、夏休みのこと、学校行事のこと…変哲のない話題ばかりだったが、時間はあっという間に過ぎた。
「それじゃ、また明日。」
「うん、また明日。」
僕達は、夏休み前にも交わしたお決まりのセリフと共に解散しようとした。
「あのさ」
僕は「ん?」と瀬戸の方に向き直った。
「あ…いや、なんでもない。」
彼女はそう言い、そのまま僕とは別の方向に歩き出した。
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