第8話
9月に入った。
僕は朝から「履修登録」と書かれた大学の学生ページと対峙し、一人でにらめっこ大会を開催しているかの如く、パソコン画面を見つめた。初めての履修登録時は、大学側で指定されたものを登録したり、自分でいくつか選択したりするだけだったので簡単だったが、今回は自分自身で行わなければいけないことになっている。自分で必要な情報を集め、組み立てなければいけないのは難しい。
また、前の学期はとにかく倍率が少なそうな科目を取っていたので、自分の好きな分野をしっかり学ぶことができなかった。今回は、倍率が多少高くても一回か二回挑戦しようと心に決めた。
窓の外は、そんな憂鬱な気持ちを晴らすかのように快晴だった。どこかに出掛けたいと思ったが、一緒に出掛ける友達もいないし、履修登録を済ませなければいけないのでやめた。某感染症も徐々に広がっており、大っぴらにどこかに行くこともできなくなっていた。考えてみれば、テレビではこの夏、某感染症に関するニュースとオリンピックのニュースとでひしめき合っていた。随時流れるニュースでは、その日の感染者数と、それに対してありきたりな言葉を言う政府の関係者が映し出され、その後でオリンピックのメダル獲得数が取り上げられていた。また、ドキュメンタリー番組では医療関連の特集が増え、バラエティ番組では「メダリスト集合!」という名目でオリンピックの名場面を振り返る番組が増えた。
変だ…僕はそう思った。「外出するな」と政府の関係者が言う割には、グルメ番組では美味しいものを随時発信して客を引き寄せている。「国民で協力して外出自粛を…」と政府のお偉いさんが言ったとしても、飲食店以外のお店は常に開いており、東京にある某スクランブル交差点では毎日のように人々が行き交っている。矛盾が存在する、カオスな空間だ。
でも…と、僕はまた思った。こんな矛盾は、今までにも沢山存在しているはずだ。今回に限ったことではない。僕が気にすることはない。
『―――。』
ふと、「あの時」の言葉が僕の頭をよぎった。僕は頭を抱えた。それもまた、辻褄の合わない矛盾の一つなのだろうか。いや、それは違う。あれは、人間の思いが嚙み合わずに起こる出来事だ。ただ、それだけの話だ。
僕はそんな雑多なことを思いながら、履修登録画面の「申請」ボタンを押し、大学生活2回目の履修登録を終えた。今日は、なんだか変なことを考えてしまう日かもしれない。
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