第5話
最初の春学期は、あっという間に終わりを告げた。
元々、ほとんどの授業がオンラインだったこともあり、僕は大学生という自覚をあまりしないまま、外出せず夏を過ごしていた。大学で行われる予定だったテストさえ、オンラインという理由で全てがレポートになった。そのせいで僕達学生は、一日に何千・何万もの文字をパソコンで打ち込んでは提出をしなければいけなかった。大学に入ってからパソコンを使い始めた僕は、多分…いや確実に、パソコンのタイピング力が上がった。
外出せず、と言いつつも、僕は何度か遠出をした。僕の住むアパートは大学から徒歩圏内にある場所なのだが、周辺にはスーパーやコンビニがあるだけで、学生が遊んだり時間を潰したりするような場所はない。そのため、僕は食品や日用品は近くで揃え、服や娯楽品は、隣駅の栄えた駅まで足を運ばなければいけない。ただ、入学してもバイトやサークルを行わず大学の授業を受けるだけの僕には、好きな時間に何かを求めて外出することが、一種の趣味と化していた。
また、僕はあれから瀬戸とカフェで会うことが何度かあった。会って話をして解散する流れに変わりはないのだが、同じ大学の学生と話す時間は、どことなく特別なものに感じた。自分が大学生という時間軸を過ごしていることが自覚できるし、同じ量のレポートを片づけたことが分かると、強い共感を覚えた。まるで、ゲームの主人公が自分と同じ旅人を発見した時のような感覚だった。瀬戸も同じように感じていたのか、会う度に砕けた言い方になり始め、気づいた時には「学部学科が同じ人」から「気の合う友達」になっていった。
ただ、僕達は「会う約束をしよう」とは全くならなかった。約束となってしまえば、僕達は決められた日時で会う分、その決まり事に縛られる。その決まり事となってしまうことが、僕は嫌いだった。ある意味、僕は瀬戸と「偶然カフェで出会って話をする」ことが楽しみの一つなのかもしれない。「約束通り会って話をする」とは違う、その偶然さが、お互い縛られず気楽なものだと感じた。
「こうして偶然会って話をするのは、気楽だし楽しいね。」
何度目かの時に、瀬戸はそう言った。
「うん、僕もそうだよ。」
僕は、首を縦に振って返した。
「そろそろ夏休みだけどさ、実家に帰る?」
「うん。最初の帰省だし、授業が終わったら早めに帰るよ。」
「そうか。私も帰ろうと思ってるんだよ。」
「お、いいじゃん。」
その後、そんな会話もした気がする…最後に会ったのが数週間前なので、あまり明確には覚えていないが。
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