第3話

オリエンテーション期間は、あっという間に終了した。

あれから何度か自己紹介をする機会があり、僕は西島や菊川と同じ枠になることがあった。が、あの時同じ雰囲気を感じ取った瀬戸とは、一度も同じ枠になることがなかった。

少人数制授業を掲げる大学でも、僕と同じ学部学科の人間は60人程いる。その中で被ることは難しい。西島や菊川と同じ枠になることも珍しいが、瀬戸だけと同じ枠になるのはもっと難しいだろう。


僕は、静かな学生生活を送ろうと心に決めていた。それは今までの人生の中で「目立つとろくなことがない」と確信したからだった。

友達を沢山作り、毎週のように遊びまくり、「人生の夏休み」ともいえる大学生活を最大限に充実したものにしようとは思えなかった。大学は、中学や高校よりも自由な時間が増え、色んなことができるようになるというだけで、キラキラした生活を送らないといけない訳ではない。静かで目立たない学生生活でも、自分の趣味を見つけることはできるし、自分から人間関係を構築しに行くことはないと思っていた。

そんな僕の決意をよそに、親や親戚には「思いっ切り遊んで、楽しみな!」と背中を叩かれた。また地元で就職した数少ない友人には「就職したら時間も出会いもないし、どんどん楽しいことをしろよ!」と言葉を投げかけられた。僕は楽しそうに話す彼らを前に、ただ頭を縦に振るしかなかった。


オリエンテーション期間で、生徒は各自授業に申し込むことになっていた。

必修科目の他に取れる科目は、申請すれば必ず履修できるものではないらしい。注目度の高い授業や楽に単位が取れそうな授業は即定員になり、抽選を行う仕組みらしかった。

あまり人と関わりたくない僕は、元々人気のない授業に申し込みをした。そのお陰で、申し込んだすべての授業を履修できることになった。

西島(何度も彼とオンライン上で会ったせいで、僕は彼と連絡先を交換してしまった)には、「チャレンジ精神がねぇよな!」と言われたが、落ちた後で別の科目を再申請するのは面倒だったのでやめた。


アパートで一人、そんな人気のない授業が入った時間割表を眺めながら、僕はどうしたら充実した生活を送れるか考えた。

一人で毎日パソコンと向き合うのは酷だ。かと言って、そんなにアクティブに動くのも好きではない。料理や洗濯・掃除は、趣味よりも家事のイメージがあってハマりそうもない。

一度頭をリセットしに行こう・・・僕はスマホのマップ画面を開き、近くのカフェを検索した。ちょうどアパートから徒歩圏内に、好きなチェーン店のカフェがあるのを確認すると、必要最小限のものを持って外へ出た。

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