死に愛される国に救いはあるのか『終遠のヴィルシュ -ErroR:salvation-』

 今年発売された作品の中で、ぶっちぎりで面白かったと感じています。

 ここまでの絶望に叩き落とされたのは、ピオフィ以来ですね。と言っても、この作品はピオフィとは違い、糖度がかなり低かったので、ひたすら絶望的な展開を耐える必要がありました。

 正直、このくらい容赦ない展開でないと満足できなくなってきています。



『終遠のヴィルシュ -ErroR:salvation-』



 まずは注意喚起をします。

 一般的な乙女ゲームを期待すると、かなり辛いと思います。この作品は、確かに乙女ゲームですが、糖度がとても低く、その上で残酷な展開や暴力描写がゴロゴロと溢れています。攻略対象に萌える瞬間はあると思いますが、それを軽々と上回る絶望を何度も繰り返し突き付けられますので、恋愛シーンに期待してしまうと完走が難しくなってしまうと思われます。

 また、この作品には地雷要素も多めに含まれています。何かしら地雷がある方はその辺りについて、口コミ等で確認してからプレイして下さい。私は雑食と言いますか、多少苦手な展開があっても平気で楽しめるので問題ありませんが、知らずにプレイして地雷を踏んだといった意見も多く見かけるので、地雷がある方は事前に確認された方が良いかと。


 正直、この作品を初めての乙女ゲームにチョイスすることは推奨できません。

 ある程度、乙女ゲームをプレイされている方で、重いシナリオや容赦ない展開が好みであるといった方にはおすすめします。



 それでは主人公の紹介をしましょう。


 主人公は「セレス」。

 人々から「死神」として恐れられ、忌み嫌われている少女です。

 何故なら、彼女と関わった人間には、必ず不幸が訪れるのです。突如亡くなったり、家が火事に遭ったり。セレスが生まれてから、彼女の行く先々でこのような事態が発生し、すっかり人々から嫌われてしまっています。

 そのため、自尊心や自己肯定感が極端に低く、常に陰鬱な雰囲気を纏っています。しかし、このような生い立ちでも捻くれることはなく、悲観的ではありますが、思いやりのある心優しい女の子に育ちました。

 自分が育った孤児院施設の手伝いをしています。


 物語の舞台は「アルペシェール」という西ヨーロッパの外れに位置する小国。四方を海に囲まれています。そして、黒いリコリスの花「リコリス・ノワージュ」が咲き誇る国です。

 この国には、「死の呪い」が存在しています。この国に生まれた民は、頑健な人であっても23歳を迎えると、血反吐を吐いて悶え苦しみ、亡くなってしまうのです。

 昔は、皆この運命を受け入れるしかありませんでしたが、数十年前に呪いに対抗するための技術が開発されました。


 それは「リライバーシステム」と呼ばれています。

 生前、国立研究所にて然る手続きを踏み、脳に蓄積された記憶のバックアップを取っておきます。そして、呪いによって亡くなった後、遺体を国立研究所に運び、そこで遺伝子情報からクローン体を生成。そして、生成したクローン体に生前取っておいたバックアップの記憶をダウンロードすることで「リライバー」となり、再び23年の生を繰り返すことが可能となるのです。

 そのため、アルペシェールには普通の人間とリライバー、2種類の人間がいます。

 ただ、リライバーには、とある仕様があります。リライバーになる場合、人々はオリジナルの肉体から一定以上の感情を持ち越すことが出来ません。これは、リライバーの感情処理能力に、限界があるためです。客観的な記憶として感情を持ち越すことは出来ますが、実感を失ってしまうのです。特に、複雑で強い感情となりやすい、恋愛感情は一切持ち越すことが出来ず、必ず失ってしまいます。


 死神と蔑まれるセレスは、不幸を撒き散らしてしまう自身を嫌っていました。そして、ついにそんな自身に失望し、街外れにあるリコリスの花畑で自殺を図ります。

 けれど、そんなセレスを止める不思議な青年が現れます。青年の名は、アンクゥ。彼は、自らを「死の番人」と称し、自分と契約すればセレスを普通の女の子にしてあげると言うのです。

 そして、セレスはアルペシェールで巻き起こる様々な不審死事件の真相に迫ることになります。



 それでは攻略対象の紹介をします。



 イヴ(CV斉藤壮馬さん)


 庶民区クーネ便利屋クルーンという何でも屋を営む青年。自警団のメンバーでもあります。

 真面目で誠実な性格。博愛主義で、相棒のヒューゴに呆れられてしまうくらいのお人好し。悪意を向けられても、それを受け入れる器量の持ち主です。

 幼少期、火事に巻き込まれて顔面に酷い火傷を負ったことから、顔の左半分を仮面で覆っています。



 リュカ・プルースト(CV平川大輔さん)


 孤児院施設や教会で、子供達に授業をしている訪問教師。セレスが住んでいる施設でも、よく授業をしています。

 几帳面で慇懃な言動の優男ですが、正義感が強いです。病に罹っている妹ナディアのために、頻繁に入院先へ赴き、見舞いをしているようです。

 信心深く、よく教会で祈りを捧げています。



 マティス・クロード(CV天崎滉平さん)


 富裕区シュディに暮らしている少年。名家であるクロード家の当主。読書が好き。年齢はセレスの一つ下ですが、かなりの童顔で子供と間違えられがちです。

 気弱で人見知りの激しい性格。この性格には、執事のジャンも手を焼いている模様。しかし、親愛していた兄が「死刑執行人ブロー」に殺されたことから、強く復讐を誓っています。



 シアン・ブロフィワーズ(CV細谷佳正さん)


 リライバーシステムを開発した天才科学者。そして、最古のリライバー。もう何度もリライバーとして生まれ変わっていて、何十年もの時を生きています。

 また、研究区セルネヴォルにある国立研究所の所長でもあります。

 肉体は脳と必要器官の容れ物に過ぎず、感情は異分子バグだと断言し、不要なものと唱えています。

 極度な効率主義者で、身内や自らの命すら、必要とあらば研究の犠牲にしても構わないと考えています。



 アドルフ(CV八代拓さん)


 セレスと同じ施設で育った義兄。自警団のリーダーを務めています。街外れで一人暮らしをしています。イヴやヒューゴは自警団の仲間であり、一緒に酒を吞み交わすくらいに親しくしています。

 ぶっきらぼうですが、根は優しい青年です。人々から死神と恐れられているセレスを大切な義妹として守っています。



 アンクゥ(CV興津和幸さん)


 死の番人を自称する謎の存在。セレスの自殺を止めて、アルペシェールで巻き起こる事件を追うように促した張本人です。

 神出鬼没で、その真意は分かりません。

 しかし、セレスを案じる様子が多く見られます。



 それでは、感想と行きましょう。


 正直に言います。最初、ホラゲかと思いました。

 序盤は、本当に謎と恐怖しかありませんでした。

 そのくらい、シナリオに糖度がなく、グロテスクかつバイオレンスなシーンや展開が詰め込まれています。

 確かに個別シナリオに入れば、攻略対象の魅力や、セレスが攻略対象に惹かれていく過程が見られますが、それも一般的な乙女ゲームと比較すれば正直少なめで、メインは奈落に堕ちるが如く絶望に突き落とされていくシナリオでしょう。

 その代わり、といってはあれですが。攻略対象同士の仲が結構良くて、面白い掛け合いのシーンが多く散りばめられていると思います。恋愛シーンが控えめな分、攻略対象個人の掘り下げに重点が置かれているように感じました。


 システム面はよくあるオトメイトシステムです。選択肢スキップもありますし、フローチャートまで実装されていますから、エンド回収の助けになると思います。ただし、フローチャートでは好感度を設定できませんので、ご注意を。


 あと、シナリオは重厚です。至る所に伏線が張り巡らされ、クライマックスで徹底的に回収されていきます。物語終盤のシナリオは読んでいて、ゾクゾクすると思いますよ。あのルートの伏線はこういう意味だったのかと思い知る瞬間が多いです。私も夢中になって読み進め、睡眠時間を削ってプレイしました。



 それでは、攻略順と推しについて。


 しかし、この作品の攻略順はネタバレになる可能性があります。そのため、詳細は語りません。けれど、この作品の仕様はかなり特殊でして。事前情報抜きでプレイすると、恐らく1人目で大混乱を起こすと思います。

 よって、今回はネタバレまでいかずとも、この作品をプレイする上で承知しておいて頂きたいヒントを書こうかなと思います。

 仕様について詳細に記載しても良いのですが、それはネタバレだと思われる方もいると思いますので。因みに、作品の公式ブログにも仕様のヒントは載っています。

 私なりの攻略のヒントをお届けします。


 それでは、折角なので終ヴィルっぽい言葉使いで行きましょうか。



 絶望せよ。

 目を背けず、幾度となく絶望せよ。

 汝、救済を望む者。

 4つの絶望の果て。その先に、救いを求めよ。


 彼の地に光を見出した後、4つの救済は解き放たれる。



 ……これ以上は何も言いません!

 兎に角、かなり癖のある仕様になっています。気を付けて下さい。



 それでは、私の推しについて。今回は熱烈に語ります。久々に本気になりました。

 こういう時に語彙力と文章力を爆発させると、もはや皆様に引かれてしまうリスクが頭を過りますが、とりあえず書きます。


 最推しはシアンです。

 本当に、この男には本気になりました。ここまで刺さった攻略対象はいつ以来か。

 シアンは清濁併せ呑んだ存在であり、その在り方が私の好みでした。

 いかに自身に人間性が欠落しているか、シアンはよくわかっています。世界や周囲だけでなく、自身すら俯瞰的に見て、常に最も効率的かつ有益な判断を下します。

 そして、何度リライバーとなっても、シアンは己の信念を決して曲げません。鋼の理性と揺るがない自己の存在意義。これらによって構成されるシアンの言動は、まさしく天才の所業。

 しかし、そんなシアンに変化が生まれるのが、彼の物語です。セレスとの邂逅によって、アルペシェールの救世主、神の寵児とまで言われている彼に、どのような変化が生じてくるのか。

 正直、私はシアンルートをプレイしていて、シアンの心中がさっぱりわかりませんでした。言葉の裏にある本音が全く漏れて来ない。そもそも、この言葉に裏があるのか。彼は何を考えているのか。こちらに察する機会を全く与えてくれません。それが、シアン・ブロフィワーズという男です。

 ただ、自身の意志を伝える時は本当に率直に伝えて来ます。なので、心臓に悪いルートでした。良い意味で。

 唐突とも感じられるくらい、真っ直ぐ胸の内を告げてくるので、翻弄されまくり、気付けば沼にドボンしていました。

 男としてのシアンは好いです。とても推しています。ですが、私は探求者たるシアンも好きですね。研究者であるシアンは、極度の効率主義かつ合理主義。時に、非道とも受け取れる選択をします。私は、そんなシアンの姿にすら惹かれるものを感じています。そのため、他のルートでシアンがどのような立ち位置にいても、この男は推せると思っていました。


 語り過ぎました。……語り過ぎましたね。

 しかし、ネタバレなしのニュアンスだけでは、これが限度というものでしょう。ネタバレを解禁してしまえば、一体何文字書き殴るのか。我ながら、わかったものではありません。


 あと、アドルフとアンクゥも推せます。

 アドルフの義兄という立ち位置から踏み出そうとする姿。セレスを守り抜く意志。純粋に惹かれるものがあります。

 アンクゥについては、好きな点について何を言ってもネタバレになりそうですが、何と言いますか、アンクゥは本当にプレイ前と後で印象がガラッと変わりました。アンクゥの物語は、本当に想定を超えてくる展開の連続でした。



 さて、シアンのことを語りまくったためか、これまでの作品紹介の中でぶっちぎりの長さになってしまいました。


 この作品はシナリオ重視な方には刺さると思います。ただ、幸せなシーンは殆どありませんので、恋愛面にはあまり期待しない方が賢明かと。

 あくまで、シナリオゲームとしての期待をして頂きたいです。本当に、伏線や設定が巧みでした。


 アルペシェールに蔓延る呪い。

 死神と蔑まれる少女。

 死の番人を名乗る謎の存在。


 幾重にも重なった謎に隠される真実へ。

 何度絶望に堕とされようとも、ひたむきに手を伸ばし続ける。

 そんな気概を持つ方にはチャレンジして頂きたい作品です。

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